石弘光(いし・ひろみつ)1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など
石弘光(いし・ひろみつ)1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など
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抗がん剤治療をするために、右胸鎖骨下を切開して設置されたポート(2018年2月に撮影)。
抗がん剤治療をするために、右胸鎖骨下を切開して設置されたポート(2018年2月に撮影)。

 一橋大学名誉教授の石弘光さん(81)は、末期すい臓がん患者である。しかも石さんのようなステージIV末期がん患者は、5年生存率は1.4%と言われる。根治するのが難しいすい臓がんであっても、石さんは囲碁などの趣味を楽しみ仲間と旅行に出かけ、自らのがんを経済のように分析したりもする。「抗がん剤は何を投与しているのか」「毎日の食事や運動は」「家族への想いは」。がん生活にとって重要な要素は何かを連載でお届けする。

【写真】抗がん剤治療のために鎖骨下を切開して設置された「ポート」

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 2017年12月12日に、衝撃的な新聞記事を見かけた。元コマツ社長安崎暁(あんざき・さとる)氏が生前葬をした記事が、各紙で報道されていた。

「コマツ元社長の安崎暁さん(80)が11日、お世話になった人に感謝を伝える会を東京都内のホテルで開いた。――今秋胆のうなどにがんが見つかり、手術不可能と診断された。抗がん剤治療を受けないことを決め、11日に自身の思いと元気なうちに感謝を伝えたい」と会の開催を新聞広告に掲載。

 インターネットなどで「心打たれた」「理想的な終活」と話題になった。――終了後に、記者会見した安崎さんは『残された時間を充実させ“人生楽しかった”と思いながらひつぎに入りたい』と話し、明るい表情で会場を後にした」(『日本経済新聞』2017年12月12日付朝刊)。
 
■内々に受けていた「治療を受けない人への説得」

 これまで安崎氏とは直接な交友はなかったが、大学時代の同級生である。

 胆のうがんとすい臓がんの違いはあれ、末期の難治がんを患い人生の岐路に立たされたわけである。実は、われわれの共通の友人であるA君から、「安崎が抗がん剤治療を受けないと言っている。しかしまだ抗がん剤治療の余地があるのだから、積極的に治療を受けてがんと闘うべきだと思う。石は抗がん剤でうまくいっているから、彼を何とか説得してくれないか」

 という相談を内々に受けていた。しかしこの説得の前に安崎氏の覚悟は固く、上記のような生前葬の開催になったようだ。
 

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