演出家・劇作家・俳優の三つの顔を持ち、幅広く活動される長塚圭史さん。海外経験が豊富で、洗練された身のこなしや知的な語り口も魅力です。作家・林真理子さんとの対談では、舞台芸術への思いから、奥さま(女優の常盤貴子さん)の素顔までスマートに語ってくださいました。
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林:私、このあいだ銀座の大金持ちの人とお茶を飲んでいたら、「持っているビルの地下が空いたから、バーをやりたい」って言うんです。100坪あるんですって。「ここ、小劇場にしたらどうですか?」と言ったんですけど、いいと思いません?
長塚:いいんじゃないですか。
林:そこで長塚さんにやってもらうように言おうかしら(笑)。最近の若いIT企業のお金持ちって、現代美術を買ったりするでしょう。そういうのだけじゃなくて、演劇にお金を使うってカッコいいと思うな。
長塚:パッと消えて、記憶しか残りませんからね。そこが魅力なんですけど。
林:次はこういうことをしてみたいな、というのはあります? 商業演劇もやってみようかなとか。
長塚:帝劇とかですか。できるかなあ(笑)。
林:歌舞伎もやってみたいなとか。
長塚:歌舞伎はとても興味がありますね。中村勘三郎さんが亡くなられてから、串田和美さんのシアターコクーンの歌舞伎で、中村勘九郎さんと中村七之助さんと尾上松也さんで「三人吉三」をやったんですけど、そのとき僕、演出助手をさせてもらったんです。
林:あ、そうなんですか。
長塚:やっぱりおもしろかったですね。もちろん串田さんの前衛的なつくり方もそうですけど、歌舞伎役者という存在がおもしろくて。彼らは感情を使わずに、声の出し方や、動きで表現ができるように訓練されているんです。七之助さんだったかな、そんなことを言っていました。
林:なるほど。「感情を使わない」って初めて聞きました。
長塚:おそらく使うんですよ。でも、使わなくても表現できる技術を学んできたんですよね。(顔を斜め下に向け、手を口に添えて)こうすると悲しく見えるというのを彼らは知っている。おもしろいなと思いましたね。勘三郎さんはそこにまた一つ熱を込めるわけですよね。