一橋大学名誉教授の石弘光さん(81)は、末期すい臓がん患者である。しかも石さんのようなステージIVの末期がん患者は、5年生存率は1.4%と言われる。根治するのが難しいすい臓がんであっても、石さんは囲碁などの趣味を楽しみ仲間と旅行に出かけ、自らのがんを経済のように分析したりもする。「抗がん剤は何を投与しているのか」「毎日の食事や運動は」「家族への想いは」。がん生活にとって重要な要素は何かを連載でお届けする。
【写真】抗がん剤を持続的に静脈注射するための注入ポンプはこんな方法
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私のすい臓がんは、予想をはるかに上回る最悪のケースであった。すい臓は胃の裏側の背中に近いところに位置する、長さ約15センチで幅約3センチの小さな臓器である。MRIなどの画像診断の結果、そのすい体部の真ん中、つまり主すい管の中央に4.8センチ大の腫瘍があり、さらに末尾のほうには小さいものがあることが判明した。
5年前から指摘されていた1.5センチぐらいの嚢胞(のうほう)が、短期間に急速にがん化したようだ。その大きさが、すい臓を突き破って外側にまで拡大しているのには驚いた。
■「末期がん」……青天の霹靂だった検査結果
さらに衝撃的なことは、PET(陽電子放射断層撮影)検査の結果からすでに私のすい臓がんは遠隔に肺へも多発転移しており、リンパ節にも転移しているとのことであった。「すい臓がんといっても、それまで早期発見に努力してきたのだから、見つかってもごく初期で治療も簡単であろう」と私は考えていただけに、意外な結果であり青天の霹靂だといわざるをえなかった。がんの進行度を表すステージ別でみると最悪の「ステージIVb」であった。
すい臓がんは、「発見が難しいがん」とよくいわれる。発見が容易でないとされるなかで、私の場合は初めからきわめて明確な形ですい臓がんだと診断された。1年に1回の検査を受けて、慎重に注意深くがん発生をチェックしていたのに、発見された段階で末期がんとは、何とも皮肉な話であった。
そのうえ、私にはすい臓がんによる兆候が一切現れなかった。「黄疸がでる」「急激に体重が減る」「疲れやすい」「背中が痛い」「腹部に膨満感がある」などの、すい臓がん特有の症状は一切なかった。元気そのものであっただけに、突然、無理やりがん患者にされて、理不尽だという気持ちでいっぱいになった。