大自然って、こういうことですよね(※写真はイメージ)
大自然って、こういうことですよね(※写真はイメージ)

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機の『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「小さな大自然」。

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 再び、いや三度か、阿佐ケ谷貧乏暮らし時代の話である。

 大センセイ、阿佐ケ谷に行きつけのレンタルビデオ屋さんを持っていた。「ビデオ7」という店名であった。

 バーやスナックじゃないのに行きつけなんて、と思われるかもしれないが、このお店にはタケさんという店主がいて、ビデオの中身についていろいろと教えてくれるのである。つまり、バーコードをピッとやるだけのチェーン店とは、ひと味もふた味も違うお店なのであった。

 いまでも、大センセイのモースト・フェイバリット・ムービーのひとつである『フライド・グリーン・トマト』(ジョン・アヴネット監督)も、タケさんが勧めてくれた映画だった。

 キャシー・ベイツ扮するエブリン・カウチという中年女性とジェシカ・タンディ扮するニニー・スレッドグッドという老婆の間に芽生える、友情の物語。

 太めのエブリンの夫婦関係は完全に冷え切っており、退屈で憂鬱な日々を送っているのだが、女友達とふたりで人生を切り拓いてきたニニーの半生を聞くうちに、自分も新たに生き直そうという気持ちを取り戻していく話である。

 派手なアクションも陰謀もエロもどんでん返しもない地味な佳品だが、新聞配達少年から身を立てて、自分のお店を構えるまでになったタケさんの人生と、どこか重なるところがあった。

 冬になると、ビデオ7の店内には石油ストーブが焚かれ、周りにいくつかのパイプ椅子が置かれた。ストーブを囲みながら、タケさんから借りたビデオについて語り合うのも、楽しい時間だった。

 ある日、ストーブに当たりながら、さて次はどのビデオにしようかと相談しているとき、タケさんが観葉植物の鉢を指さして、こう言った。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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