ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「満島ひかり」を取り上げる。
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『降板』『キャンセル』『辞退』『卒業』『交代』。番組や舞台への出演を辞めたりする際に使われる表現ですが、とりわけ辞める側の自発性と勢いを含んでいるのが『降板』です。啖呵を切って「もうやってらんない! 辞めてやる!」的な負の感情に満ち溢れています。
先日報道された満島ひかりさんの『舞台降板』のニュースは、(ホントかどうかは別にして)久しぶりに『降板』という言葉がしっくりくる案件でした。今や日本を代表するアラサー女優となった満島さんは、Folderという沖縄アクターズスクール出のアイドルグループ出身です。中学に上がる前から芸能界で仕事をしてきた真の『叩き上げ』。その志の高さと強さは、まだ女優として駆け出しだった10年以上前から筋金入りでした。そして現在の活躍を見るにつけ、ひと癖もふた癖もある存在感には、ずっとひとかたならぬ期待を寄せている次第です。
私が満島ひかりに対して抱き続けてきた漠然とした期待感の正体みたいなものが、今回の件で判明した気がします。それがまさに『啖呵を切って降板』なのです。実際に彼女が捨て台詞を吐いて主演舞台を降りたかどうかは、まったくもって不明です。これはあくまで「満島ひかりは“降板”が似合う女優であって欲しい」という私のファンタジー。やはり『降板』を成り立たせるには、それに見合う実力と人気がなければ映えませんし、さらには降板に至らしめるだけのストイックさと頑固さと不安定さも必要です。『絵になる降板劇』は、『主演』を張るよりも遥かに難しい、人を選ぶものだと思います。そういった点において『満島ひかり舞台降板』は申し分なしと言えるでしょう。何度も言いますが、あくまで私の妄想ですからね。