作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、「元狛江市長」について。
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東京都狛江市の「セクハラ市長」が辞任を表明した日、長年セクハラ問題と戦ってきた女性と話す機会があった。今年93歳という女性は、晴れやかにこう仰っていた。
「お尻を触った市長が辞職します。亡くなった仲間たちが、お墓の中で安心していると思います」
ああ、これが女の戦いなんだ、と胸が詰まる思いになる。職場で通りすがりにお尻を触る上司が珍しくもない時代があった。訴えても「減るもんでもないし」と女性の口を塞ぐような時代が、少し前まであった。そういう社会で女性たちは、「他人様の身体に何の前触れもなく触ってはいけないんですよ」という、まるで子どもに言うようなことを、いちいち大人の男たちに向けて語り、戦ってきたのだ。
とはいえ、狛江市の元市長は残念すぎるものだった。彼は記者会見でこう言った。
「私が主張してきたこと(セクハラしてない)に一点の曇りもありませんが、受け手がハラスメントと思えばハラスメントであると認めざるを得ない。(女性が)勇気を持ってハラスメントと主張されているのであるので、これをハラスメントと認め謝罪したい」
まるで女性の勇気に敬意を示した男らしい俺様の英断、みたいな調子だ。