昔に比べ、身体機能も知的能力も若返る高齢者。しかし近年、75歳を機にその能力は一気に低下することがわかった。古い常識を捨てて、「75歳」前後を境に変わる病気のリスクを知り、考え方を変えることが健康長寿の秘訣といえる。その方法を好評発売中の『差がつく70歳からの病気 サインと最新治療』から紹介する。
愛知県在住の小林公則さん(仮名・78歳)は65歳で糖尿病を発病してから、血糖値を下げる食品を選んで食べるようにしてきた。
「白飯には、酢の物を合わせて食べるようにしました。苦手なレモンも、血糖値を下げると聞けば、我慢して食べていました」
いつものように糖尿病の薬を飲んだとき、頭がクラクラし、脱力感を覚えた。急いで病院に駆け込むと、
「『低血糖です』と言われました。70代も後半になると、血糖値が高くても糖尿病リスクは高くはないとも言われて。血糖値を下げることだけを考えて生活してきたので、驚きました」
日本老年医学会で高齢者の生活習慣病管理ガイドライン作成ワーキンググループ委員長を務める東京都健康長寿医療センター内科総括部長の荒木厚医師はこう話す。
「75歳を境に治療目標が変わる一例が糖尿病です。高血糖は、75歳未満では合併症や死亡と関連していますが、75歳以上ではその関連が弱くなるのです」
スウェーデンの追跡調査によると75歳未満の糖尿病患者では、血液中のヘモグロビンA1c(HbA1c)値が増加するにつれて心血管死亡のリスクが増加したが、75歳以上ではその値の増加に伴う心血管死亡リスクの増加は軽度となり、ヘモグロビンA1c値が7.9%以上で初めて有意となったという。心血管死亡リスクとは、動脈硬化などが原因となって血管が詰まって起きる心筋梗塞などで死に至る確率を指す。
この調査結果は、75歳以上では血液中のヘモグロビンA1c値の目標は緩やかでいいことを示している。心血管死亡リスクに寄与しない理由について、荒木医師はこう説明する。
「75歳以上になると心身の機能低下またはフレイルがあるために、平均余命が短くなり、血糖コントロールによる心血管疾患の予防効果が目立たなくなるためであると考えられます。一方、ヘモグロビンA1c値が7.0%未満だと逆に、重症低血糖、転倒・骨折、脳卒中などのリスクが高くなり、治療自体による副作用が大きくなります」