エリック・クラプトン、ジミー・ペイジとともに“3大ギタリスト”と評されるジェフ・ベック。その生い立ちや半世紀に及ぶ音楽キャリアを集大成したドキュメンタリー映像作品『スティル・オン・ザ・ラン~ジェフ・ベック・ストーリー』には、ファンなら見逃せないエピソードが満載だ。
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常に新たなことに取り組み続けてきたジェフは、2016年に『ラウド・ヘイラー』を発表し、昨年にはデビュー50周年記念の来日公演で話題を呼んだところだ。
今回のドキュメンタリー映像は、車好き、とりわけホット・ロッド・マニアで知られるジェフらしく、自動車修理工場さながらの自宅のガレージで、ホット・ロッドを組みたてるシーンから始まる。デヴィッド・ギルモアをはじめ、多彩なゲストのショート・コメントをはさみ、音楽やギターとの出会いが語られる。
1973年の来日時に取材したときには、言葉数も少なく、物静かなたたずまいが印象深かった。穏やかで気取りのない語り口は変わりないものの、あの時よりも雄弁なジェフが語るエピソードの数々に興味をそそられた。
ジェフ・ベック(本名ジェフリー・アーノルド・ベック)は44年、ロンドン南方のウォリントンで生まれた。母がピアノを弾いていたことから一家には音楽が常にあり、母からピアノのレッスンも受けた。だが、ジャズ・ピアニストのアート・テイタムを知って以来、ピアニストになるのは断念。レス・ポールの速弾きに魅せられ、エレキギターに関心を持つ。姉の薦めで見た映画『女はそれを我慢できない』で“人生が変わった”といい、出演していたジーン・ヴィンセント&ヒズ・ブルー・キャップスのギタリスト、クリフ・ギャラップの影響を受ける。
アート・スクール時代、姉にジェフと同じような“オタク”がいると紹介されたのがジミー・ペイジだ。ジェフ、ジミーが語る2人の出会い、熱中し、解明しあったギターのテクニック、同様に好んだシカゴのR&Bやブルースについてのエピソードには胸が躍る。
やがてバンド活動をはじめ、アート・スクールを退学してプロに。名声を得たのはエリック・クラプトンの後釜としてヤードバーズの一員となり、名曲「ハートせつなく」「シェイプス・オブ・シングス」で斬新で画期的なギター・ソロを生んでからのことだ。
本作でエリック・クラプトンが語る交代劇の経緯、ジェフが明かす先の2曲のギター・ソロのエピソードはオールド・ファンにはうれしいに違いない。
ミケランジェロ・アントニオーニ監督の映画『欲望』(66年)にヤードバーズが出演して3千ポンドの小切手を手にした際、他のメンバーが賢く投資などをしたのに対し、ジェフはアメリカ車のコルベットを入手した、という逸話も、いかにも彼らしい。
アメリカの公演では、わずか15分という持ち時間と“バカげた連中”とのパッケージ・ツアーに嫌気がさし、たった2回ステージに立っただけでヤードバーズを脱退。自身の意思を曲げない頑なさを物語る。