■「黒い色の、辛いカレーで、香りのよさがたちまちに食欲をそそる」

 都職員時代は、自転車で渋谷の繁華街に出向き昼食を摂(と)っていた。一番足しげく通ったのが、百軒店にある昭和26年創業のインド料理店「ムルギー」。

〈売りもののカレーライスに独自のものがあり、日ごとに食べても飽きなかった〉(※3)というほどだった。

〈ライスを、ヒマラヤの高峰のごとく皿の片隅へもりあげ、チキンカレーを、ライスの山腹の草原のごとくにみたす〉(※3)という独特の盛り付け方は、登山好きの初代店主・松岡憲策さんが開店当時から始めたもの。

 今も盛り付けを変えずに提供している。数十種類ものスパイスを用いて醸される香りも良く、複雑な辛さが後を引く。

「ムルギー」東京都渋谷区道玄坂2‐19‐2/営業日:11:30~15:00L.O./定休日:金祝 *GW中の28日~6日は休み

■池波が艶やかな女性に贈った土産とは?

 甘味も大好きで、「竹むら」で粟ぜんざいを食べた後は、土産に揚まんじゅうを買うのが定番。ただし〈殊勝に家族のものへ持って帰るのかというと、そうではないのだ。これからあとに、われらの真の目的があるわけで、揚まんじゅうは白粉の匂いのする“生きもの”の口へ入ってしまうのである〉(※2)。汁粉屋は男女の逢引きに相応しい場であると記し、『鬼平犯科帳』で同心の木村忠吾が町娘を求めるシーンを描いた池波ならでは。

「竹むら」東京都千代田区神田須田町1‐19/営業時間:11:00~20:00/定休日:日月祝

(取材・文/本誌・菊地武顕)

週刊朝日 2018年5月4-11日合併号