湯川久子さん(90)は2人の子どもを育てながら60年以上、弁護士として働いてきた。福岡市の自宅兼事務所には今も、さまざまな世代の相談者がやってくる。
【写真】蔦屋書店で行われた「お話し会」にはたくさんの人が訪れた
「40年以上、福岡家庭裁判所の調停委員をやってきたので、離婚や相続のご相談が多いんですよ。私の仕事は、人間関係で苦しまれている方が結論を導き出すためのお手伝い。1時間じっくりお話を伺います」
悩みの形はさまざまだ。
「長い間我慢してきたけれど、実は結婚したときから夫のことが嫌いだった」「こんなに冷たい夫婦関係をいつまで続けなければならないのだろうか」
「お若い方から相談を受けることもあります。『結婚して、相手の本性がわかりました。嫌で嫌でたまらない。どうしたらいいのでしょう』と。私は相談者に対してこうしたほうがいい、なんてことは言いません。ただ相手の方に悩みをきちんと私という第三者に話していただいて、自分が抱えている問題を一度客観視していただく。そうすると、問題解決の糸口はおのずから見えてくるものです」
離婚はカッとなってするものではない。だから離婚相談にやってくる女性たちには、次の9項目のうちで夫に当てはまる項目を数えてもらうことがある。働かない・生活費を入れない・暴力を振るう・暴言を吐く・大酒飲み・浮気をしている・借金がある・子育てに協力しない・家事を手伝わない。
「これは私がこれまで見てきた離婚の原因の中で、妻側からよく聞かされる9項目です。離婚はケース・バイ・ケースですから、1項目でも当てはまれば離婚を考えたほうがいい場合もあります。でもこの質問をすると『これとこれは当てはまるけれど、あとは当てはまらない』と夫のよさに気づく相談者も多いのです。我慢の先に幸せは存在しない場合もありますよ。でも1回は少し客観的な視点を持って相手のよいところにも目を向けてみることですね」
心に抱えている問題から、少し距離を置いてみるのだ。
「それで防げる離婚だってないわけではありません。人生は迷うことだらけ。でも苦しみは放置せずに乗り越えていかないとね。『どん底』を変えられるのは結局は自分自身なのですから」
(エディター・赤根千鶴子)
※週刊朝日 2018年4月27日号