西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。
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【貝原益軒 養生訓】(巻第七の6)
薬をのまずして、おのづからいゆる病多し。
是をしらで、みだりに薬を用て、薬にあてられて
病をまし、食をさまたげ、久しくいゑずして、
死にいたるも亦多し。
養生訓では、人の体が持つ自然治癒力についても語っています。
「薬を飲まなくても、自然に治る病気が多い」(巻第七の6)と述べた上で、「これを知らないでむやみに薬を使うと、薬のせいで病気をひどくし、食欲をなくして、長く治らないで、死にいたることも多い」(同)と警告しています。
益軒は自然治癒力を信じることの大切さを説いているのです。
自然治癒力はラテン語でvis medicatrix naturae。ラテン語にその言葉があるのですから、古代ローマ帝国時代には、すでに概念が流布していたのでしょう。
その起源はさらに遡って、古代ギリシャの医聖ヒポクラテス(紀元前460年頃~紀元前370年頃)まで行き着きます。それまでのシャーマン(呪術)の医学から、人体の観察を基盤とする経験科学的な医学を打ち立てたヒポクラテスは、治癒の根源として内なる自然の力というものを考えました。それを引き出すことを医術の中心にすえたのです。
この考え方はローマ帝国時代の名医、ガレノスを経て、西洋医学に受け継がれました。その後、イギリスの生理学者、ハーヴェー(1578~1657)が血液循環の原理を発見するに至って、医学の表舞台からは消えていきます。つまり、自然治癒力というような目に見えないものではなく、血液のように実体のあるもので、生理現象を解明するようになったのです。
ところが、ケガをしてできた傷が自然に治っていくという誰もが知っている治癒の正体は、現在にいたっても全くわかっていません。手付かずといっても過言ではないのです。