前出のiPS細胞を使った治療を初めて受けた女性の経過は良好で、術後は視力低下が止まり、3年以上経った今も0・1の視力を維持できています。自分の細胞を使うため、移植後の拒絶反応も起きていません。安全性と効果を確かめるため、今後も経過観察を続けていきます。
■iPS細胞ストックの実用化へ
しかしこの治療は本人の細胞をもとにiPS細胞を作製するフルオーダーメイドなので時間も費用もかかり、多くの人が受けるのは難しいと言わざるを得ません。
現在、この問題を解決すべく研究チームが取り組んでいるのが、「iPS細胞ストック」を利用する方法です。iPS細胞ストックとは、日本人に多い免疫の型を持つ人から提供された細胞でiPS細胞を作り、網膜色素上皮細胞に分化させて冷凍保管したもの。他人のiPS細胞でもこの型に合う人であれば、移植しても拒絶反応は起きにくい。ピタリとはいかないまでもそこそこ合わせられる、というわけです。
保管したiPS細胞ストックを使えばすぐに移植をすることができます。またiPS細胞ストックは量産できるので、コストも格段に抑えられます。
「17年には5人がiPS細胞ストックの移植手術を受け、経過観察しています。自分の細胞ではないのでなんらかの拒絶反応が起こるのは織り込み済みですが、免疫抑制剤を使わなくて済む程度に抑え込めれば、治療として成り立つと考えています」(同)
安全性が確かめられれば、効果についても確認し、数年以内の実用化を見込んでいます。また臨床試験で使用したiPS細胞ストック免疫の型では日本人の17%の人が治療を受けられますが、今後違う型のiPS細胞ストックを増やしていくことで治療を受けられる人が増えていきます。
「iPS細胞による再生療法は、夢の扉を開けたばかりです。将来多くの人が受けられる治療として根づかせるために、今は一つひとつ丁寧に成果を積み重ねていくことが大切です」
と、栗本医師は話しています。(週刊朝日医療健康チーム・熊谷わこ)