津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)
ソーシャルメディアに蔓延するフェイクニュースやデマ(※写真はイメージ)
ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。欧州委員会が発表したフェイクニュース対策について解説する。
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ソーシャルメディアに蔓延(まんえん)するフェイクニュースやデマ。それが社会、政治にもたらす悪影響を抑制するにはどうすればよいのか。欧州委員会は3月12日、フェイクニュース対策について提言する高度専門家グループ(HLEG)の最終報告書「虚偽情報への多元的アプローチ」を公表した。
1月にできたHLEGは、報道機関やジャーナリスト、ファクトチェッカーらに加え、フェイスブックやツイッターなどのプラットフォーム、研究者、市民団体など、多様な関係者から招集された39人の専門家によって構成される。欧州がとるべきフェイクニュース対策について助言を行う集団だ。
HLEGが第一に呼びかけたのは、「フェイクニュース」という言葉の使用の中止だ。問題はもはや「ニュースに似せたうその情報」に限定されるものではない。さらにフェイクニュースという言葉は、一部の政治家やその支持者が受け入れがたい報道を頭ごなしに否定し、報道機関を攻撃するためにも利用されている。フェイクニュースという言葉では、問題を正しく認識できないというわけだ。
その上で、「公共を害すること、あるいは自らの利益を意図して設計/提示/拡散されたうその/不正確な/誤解を招く情報」と定義される「虚偽情報(disinformation)」の問題として理解するよう求めている。このような虚偽情報は選挙の民主的プロセスや、公共政策の民主的意思決定を害しているという。単なる誤報と虚偽情報は違うのだ。
報告書が強調するのは、虚偽情報の問題の複雑さだ。様々な意図を持った多様な人びとが複雑に絡み合い、テクノロジーの進化に伴ってさらに複雑化していく。適切な対処を行うには、虚偽情報の発生・拡散メカニズムやその規模、影響に関する研究を継続的に行い、最新のエビデンスにもとづいて問題を理解することが不可欠であると訴えている。
その一方で「誤った対処」として警告するのが、「検閲」や「インターネット監視」だ。表現の自由や情報授受の自由に悪影響を及ぼすだけでなく、対処への不信感を増大させ、虚偽情報を拡散しようとする側に利用される可能性もあるからだ。もはや虚偽情報を根治することはできない。対症療法をどのように組み合わせて症状を軽くするのか、包括的な対策が求められている。
※週刊朝日 2018年4月13日号