ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。イギリスで話題のニュースアプリ「コンパスニュース」について解説する。
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公開から10カ月で5万人のユーザーを獲得したニュースキュレーションアプリの「コンパスニュース」。まだまだ駆け出しのベンチャーではあるが、ニュースになじみのない大学生にジャーナリズムを届けるための革新的な試みが英国で注目を集めている。
コンパスニュースを立ち上げたのは、20代半ばの元大学生、マチルダ・ジリオ氏とマヤンク・バナジ氏の2人だ。彼らが起業したきっかけは、2015年の英国の総選挙やEU離脱をめぐる国民投票の結果にある。彼らにとってその二つの結果はまったく予想外で、彼らの予想を支えていたのは、自分や身近な友人の好みを反映したフェイスブックのニュースフィードだった。
自分たちにとって好みの情報だけ自動的に届けられる「フィルターバブル」にとらわれていたことに気づいた彼らは、ソーシャルメディアによってジャーナリズム──ひいては民主主義がゆがめられているのではないかとの疑問を抱くようになっていった。
2人は英国各地の大学に出向き、千人を超える学生に聞き取り調査をした。その結果見えてきたのは、1日1回、5分程度のニュースチェックを除けば、ほとんどのニュースをフェイスブックやツイッターから得ている大学生の姿だ。
信頼できるニュースを得たいと思っていても、情報が多過ぎる環境に戸惑っていることも見えてきた。それらの状況を踏まえて作り上げたのがコンパスニュースだ。
1日2回、朝と晩に計12本のニュースを配信している。ワシントン・ポストやガーディアンといった新聞から、アトランティックやニューヨーカーなどの雑誌、ヴォックスやクオーツなどの新興ウェブメディアまで、信頼性の高いメディアが配信する記事の見出しが集められ、それぞれ30秒程度で読める要約がつけられている。