ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「そだねーJAPAN」を取り上げる。
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女子たちのたわいもない会話、いわゆるガールズトーク? 私が最も苦手とするもののひとつです。学校、オフィス、電車、飲み屋に至るまで、彼女たちのよく通る高音が織り成すグルーブ感を少しでも察知すると、昔からどこかに逃げたくなります。基本的に3人以上の他人の話し声が無抵抗な状態で耳に入ってくること自体、できれば遠慮したいと思いながら生きているので、男女関係ないのですが、それでも女同士のあの和気あいあいとした会話って何なのでしょう。控えめな平和な空気をコトコト煮込むような混沌とした言葉の垂れ流し感。そして何かを言った後に発せられる根拠のない笑い声。あれを聞いたり見たりしていると怖くなってくるのです。
一方で苦手というのは裏を返せばコンプレックスでもあるわけで。自分が、彼女たちのように軽快かつ無責任なコミュニケーションを取る能力に欠けていることは重々承知しています。さすがにこのままではいけないと思い、ここ数年は「あ、その靴かわいい!」とか「なんかお腹減ったよね」といった、私にとってほとんど言うに値しないことも意識的に声に出すよう心がけています。会話はリズム。意味なんて二の次。そして、そんなリズミカルなコミュニケーション能力が、感じの良さや可愛らしさを形成し、さらには恋人ができたり結婚に繋がるのかもと、最近になって分かってきました。
とはいえ、これは一生克服できない難題だと、改めて見せつけてくれた人たちがいます。先のオリンピックで銅メダルに輝いた日本女子カーリングのお嬢さんたちです。これぞ全方位女子力の塊! 器量の良さも可愛らしさも逞しさもしたたかさも、すべてが細やかで軽やか。競技そのものに興奮、熱狂したのはもちろんのこと、女性に興味ゼロの私が、ともすればちょっと鼻の下を伸ばす勢いで、「ノンケ男だったら、こりゃ堪らんだろうなぁ」と妙な気分で見入ってしまいました。
勝敗を分ける大事な一投に対し「右かなー?」「左もアリだよねー」「そだねー」「右だねー」「いいと思ーう」なんてノリ(あくまでイメージ)で意思を疎通させ、共有し、判断を下し、そして的確に命中させるのです。私には死んでもできない。所詮自分は『女を装う』と書いて女装なのだと痛感しました。それぐらい彼女たちは眩しかった。普段なら負け惜しみで「フン! この小娘が」ぐらいの捨て台詞を吐くところですが、今回だけは彼女たちの淀みなき女子力の高潔さにひたすら清々しさを覚えるばかり。何よりも、彼女たちに萌えられないことが、心底「悔しい」「もったいない」と思ったのが凄い。この私に、生まれて初めてオカマであることを後悔させた女子。それが『ロコ・ソラーレ北見』。
憧れではなく、「ノンケ男になって、彼女たちと合コンがしたい」と思うって、これはオカマ的にはとんでもない精神的クーデターです。もし今、彼女たちが合コンをやろうものなら、あらゆる上玉男子がひょいひょい集まること必至でしょう。「いちばん右どうかねー?」「悪くないねー。でも左から2番目もアリだよねー」「そだねー。イイ人そうかもねー」「したっけ2番行ってみるー」「うん、いいと思ーう」。どう考えても最強じゃないですか。東京でやる際は、いつでも私の店を開放しますよ。
※週刊朝日 2018年3月16日号