日立にとって英国事業は主要機器を輸出する大事な商売で、原発輸出は悲願。第三者に投資を求めて損失が及ばないようにして推進する。虫のいい話である。

 だが、「インベスタブルと説明するのが難しい」とトップがいう投資に、応じる企業はあるだろうか。

「電力会社や政府系の日本政策投資銀行に出資させようと経済産業省が動いています」

 原発問題を追う記者はいう。市場原理でカネが集まらないから、政府が間に入って出資を募る。この国は資本主義ではなかったのか。

「原子力という技術は、出発点から国の施策と産業界とが一体で推進しないと成立しない。(中略)燃料調達から燃料のライフサイクル、その技術の国際的な関係も含めて、国の関与なしにこの産業が成立するとは思っていない」

 中西氏は記者会見でそう述べた。原発は「安くて安全なエネルギー」とされ、投資採算が合うから事業として乗り出したのではなかったか。事故で安全性が問題になり、採算が合わない技術とわかり、「民間ではできない」と言いだした。

 日立の英国事業はアングルシー島だけで3兆円かかるという。日本側が半分の1兆5千億円程度を負担する。内訳は資本金3千億円、融資1兆1千億円。国際協力銀行(JBIC)とメガバンクが融資する方向だが、メガはしり込みしている。融資したカネが返ってくるか不安だから。

 そこで登場するのが、経産省の所管する日本貿易保険。輸出入に絡む融資で損失が生じた時、債務保証する。途上国でもない英国への輸出金融を100%保証する。異例な手厚い保護が検討されており、国家丸抱えの原発輸出体制である。

 福島事故を教訓に「脱原発」に舵を切った欧州で、撤退する会社に飛びついたのは日立の失敗だろう。速やかに損失を切り捨て、会社を身軽にすることが経営者の務めではないか。

 中西氏は経団連会長就任の動機をこう語っている。

「おこがましいが、経団連の立場で動くことが日本経済にとってすごく意味あることと思いはじめた」

 経団連会長になれば影響力が増す、ということか。

 安倍首相とも親交がある。「アベとも財界人」の筆頭とされる葛西敬之・JR東海名誉会長が主宰する総理を囲む「さくら会」のメンバー。政府が官邸で開く未来投資会議の議員でもある。

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