ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
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今の日本には『お化粧臭さ=面倒臭さ』が足りていない? (※写真はイメージ)
今の日本には『お化粧臭さ=面倒臭さ』が足りていない? (※写真はイメージ)

 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は「お化粧臭さ」について。

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 私自身がそうであるように、昔から化粧っ気の強い顔が好きです。むせ返るほどに豊かな色彩、宝船のような絢爛な御髪と装飾。世間もまた定期的にそのような顔を求める傾向があるように思います。デヴィ夫人を筆頭に、美川憲一さんや細木数子さん、先日亡くなられた野村沙知代さんなど、造作云々とは別の派手で濃い顔は、ただ華やかなだけではなく生命力の豊かさを感じさせ、臆病な日常を吹き飛ばしてくれる強さがあります。自分もそんな存在になれればと、今日も粛々と左官屋さんの如く塗り勤しみ、ペンキ屋さんよろしく色を重ねている次第です。

 私が子供の頃は、もっと『お化粧臭い』ご婦人方がウジャウジャしていたような気がします。ちょっとした授業参観日なんかには、ここぞとばかりに口紅や白粉の香料、ヘアスプレーやヘアミスト、そして香水とナフタレンが混ざった匂いが押し寄せて来ては、「この匂いを10分以上嗅いだらオカマになってしまう」などと心配したものです。どうやら化粧品業界も無香料やオーガニックといった時代の波に押され、街から『お化粧臭さ』が失われつつあります。かつてはブラウン管越しでも化粧臭さが匂い立ってきそうな華やぎがありましたが、暮れの紅白を観ていても、女性演歌歌手の人たちですらどこかデジタライズされた『ノイズキャンセリング(無雑音)&スメルキャンセリング(無雑臭)』仕様になってしまっている印象を受けました。匂わないテレビなんてテレビじゃないのに。

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