本作は昨年6月、全22曲を収録し、ストリーミング配信だけでリリースされた。曽我部は、米国のR&Bシンガー/ラッパーのフランク・オーシャンの『blonde』を聴くため、定額聴き放題サービス(サブスクリプション)に加入。以来、ヒップホップ系のアーティストの作品に触れ、刺激を受けてきた。自身の娘はじめ、CDプレーヤーを持たない若い世代や、サブスクリプションに関心を持たない世代へのアピールをもくろんでのことだった。

 今回のフィジカル化、つまりはCD化やアナログ盤のLPの発表は、その登場を待つ従来の聴き手の要求に応えたものだが、配信時とはミックスを改め、いくつかの曲を外し、新曲を加えている。

 寄せ集め的なアルバムとはいえ、いくつかのテーマがくみ取れる。なかでも顕著なのは、昨今のヒップホップ、ラップやトラップなどへの興味、関心がもたらしたソウル/ファンクテイストによる音楽展開だ。ファルセットによるソウルフルな歌がふんだんに聞かれ、オートチューンの積極的な活用も特徴として挙げられる。

 意表をつく幕開けのブギ・ロックの「Tシャツ」、アンビエント風の「東京市憂愁(トーキョーシティブルース)」に続いて登場する「青い戦車」、さらには「クリスマス」「金星」「すべての若き動物たち」「虹の外」などがそれだ。

 そのうち「クリスマス」のファルセットによる歌やリズム展開はカーティス・メイフィールドをほうふつさせ、小西康陽にリミックスを委ねた「クリスマス ―white falcon & blue christmas―」ではその印象をより濃くしている。ライトなソウル/ファンク風の「虹の外」からはプリンスの面影も覗く。

 ラッパー2人をゲストに迎えた「街角のファンク feat.C.O.S.A.& KID FRESINO」は、ハイライトのひとつだ。また、「はつこい feat.泉まくら」は丸山が参加した唯一の曲で、サニーデイ・サービスならではのフォーク・ロックに、女性ラッパーをゲストに迎え、恋愛模様の追憶を男女のそれぞれの視点で対比してみせている。

 ジューク/フットワーク系のクレイジーケニーに音声だけのファイルを送り、リミックスを委ねた「抱きしめたり feat.CRZKNY」はどこまでも過激でアバンギャルド。その展開には驚くばかりだ。

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