続く「希(ねが)い」。“欲にまみれた希い”は先を争って叶ってゆく。ささやかでつましい弱者の希いは粉雪のように残される。“肩を抱いてみても 頬を寄せてみても”つつましい希いは聞き届けられないと歌う。昨今の日本の社会事情を反映した歌詞である。

 思い起こすのは一昨年から去年にかけての「中島みゆきConcert『一会(いちえ)』2015~2016」や、昨年暮れの夜会『橋の下のアルカディア』のことだ。前者では翻弄される弱者の存在、後者では社会から捨てられた人々を主人公に“個”を追いやる集団の狂気、近年の異常気象や地震での人災による犠牲者、いじめや児童虐待の被害者の存在を思い浮かべさせた。「希い」もそうした社会問題を背景に力強い熱唱を聞かせる。そして「慕情」が大きな余韻をもたらす。

『やすらぎの郷』があって生まれたラヴ・ソング集の『相聞』は、男女間の恋愛だけでなく、過ぎてきた時間、現在、未来、人と世のかかわり、その人間模様を浮き彫りにしている。“限りない愚かさ 限りない慕情”という歌詞がそのすべてを物語っている。(音楽評論家・小倉エージ)

●『相聞』(ヤマハミュージックコミュニケーションズ YCCW-10315)

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