イスラエルからの大きな潮流
Respect Vol.1 / Roy Assaf (Jazz Legacy Productions)
イスラエルからアメリカに進出して活躍するミュージシャンが、近年大きな潮流を生んでいる。これが初リーダー作となるロイ・アーサフも、そのムーヴメントに加わったピアニストだ。
1982年テルアビブ生まれ。母国の音楽学校でジャズを学び、ビッグバンドで活躍。奨学金を得て米バークリー音大に進み、さらにNYのマンハッタン音楽院で研鑽を積んで2008年に修了した。ダウンビート、ASCAP、レッド・シー・ジャズ祭等の若手を対象にしたコンペでの受賞歴も多数。ジミー・ヒース、ジェームス・ムーディ、ディジー・ガレスピー・オールスター・バンドとの共演歴があり、現在はミンガス・ビッグバンドとウィナード・ハーパー6のメンバーでもある。
制作に当たってアーサフが考えたアルバム・コンセプトが面白い。選曲は10人のジャズ・ピアニストのオリジナルのカヴァー集であり、自作を2曲加えたもの。また曲順は作曲者の生年順に並んでおり、この1枚にジャズ・ピアノの歴史を集約したような趣も感じられる。編成はトリオを基本に中型とビッグバンドを各1曲盛り込んで、変化をつけた。
カウント・ベイシー曲#1はミディアム・スローの肩の力を抜いた演奏で、偉人に対するリスペクトとジャズへの愛情が伝わってきて好ましい。あまりポピュラーではないモンク・ナンバーに着目してエネルギッシュなトラックに仕上げた#2、オスカー・ピーターソン作のオリジナル賛美歌でジャズ的黒さを表現する#3、ジャズ・メッセンジャーズのレパートリーでもあったウォルター・デイヴィスJr.の曲を現代的なセンスでスマートにまとめた#4、ピアノ奏法でアーサフが影響を受けたチック・コリアのエレクトリック・バンドの#7、美旋律バラードに作曲家ケニー・バロンのセンスを再認識する#8、アーサフのみならずロジャースとハッチンソンもオリジナル・ヴァージョンの“スタンダーズ”を意識したに違いないキース・ジャレット曲#9。ハービー・ハンコック曲#6はトランペット&フリューゲルホーン3本、バスクラ、ヴォイスを効果的に使ったジョン・リーのアレンジが秀逸で、『ミスター・ハンズ』からのマニアックな選曲にも共感できる。マッコイ・タイナーの壮大なナンバーを、自らのピアノを躍動させながら総勢20名のバンド+コーラス+SEで描いた#5も充実。最後にバラード#11とラテン・タッチの#12の自作2曲を配したアーサフが、どこまで先達ピアニストたちの域に近づけるのか。要注目の新鋭だ。
【収録曲一覧】
1. Easy Does It
2. Brake’s Sake
3. Hymn To Freedom
4. Uranus
5. Fly With The Wind
6. Textures
7. Eternal Child
8. Song For Abdullah
9. Prism
10. Setember In Rio
11. Guardian Angels
12. Gozo
ロイ・アーサフ:Roy Assaf(p)(allmusic.comへリンクします)
リューベン・ロジャース:Reuben Rogers(b)
グレッグ・ハッチンソン:Greg Hutchinson(ds)
ロイ・ハーグローヴ:Roy Hargrove(flh)
エリック・アレキサンダー:Eric Alexander(ts)
2011年4月、米ニュージャージー録音