著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は落語家の林家たい平さんが「宿六」のおにぎり〈塩紫(しそ)漬・山ごぼう〉を紹介する。
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あれは僕がまだ、大師匠の初代三平宅に住み込み修業をしていた20代の頃。兄弟子がたまたま、この店に連れていってくれました。子供の時、おふくろがよく弁当に入れてくれた塩紫漬のおにぎりを食べたら、懐かしくて。それ以来、浅草演芸ホールの帰り、こっそりひとりで立ち寄るようになったんです。
修業中の身ですから、普段はほっとできる時間がない。そんななか、先代の女将さんが割烹着姿でいつも笑顔で迎えてくれましてね。まさに東京のお母さんのような存在で。カウンター越しに「頑張ってたら、きっといいことあるよ」って、いつも励ましてくださった。
香りのいい海苔で挟んだ握り飯は、ほっかほかで愛情が詰まってて。噛みしめながら、頑張ろうって気になりましたね。当時の女将さんはお亡くなりになりましたが、最近、2代目の女将さんの笑顔がお母さんそっくりになってこられた。
おにぎりは日本人にとっては食の原点。そして僕にとっては落語家の原点でもあるんです。
「宿六」東京都台東区浅草3−9−10/営業時間11:30~17:00、18:00~翌2:00(売り切れ次第終了)
(取材・文/今中るみこ)
※週刊朝日 2017年12月8日号