制度100年になる民生委員制度を紹介するチラシを配るスタッフ (c)朝日新聞社
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3の習慣を支える「町」「住まい」の関係(週刊朝日 2017年11月24日号より)
3の習慣を支える「町」「住まい」の関係(週刊朝日 2017年11月24日号より)

 最期を自宅で迎えたいという願いが叶っているのはわずか10%のみ。老化は、65~74歳の健康な「第1段階」、できないことが増える75~84歳の「第2段階」、最低限必要な食事や排泄などができなくなる「第3段階」に分かれる。自宅で死ぬためには第2段階でとどめる覚悟と「人付き合い」「家事」「運動」の三つの習慣を徹底することが大切だ。それを実践するためには、準備も必要。住生活コンサルタントの大久保恭子が調べた。

【わかりやすい図はこちら】3の習慣を支える「町」「住まい」の関係

 三つの習慣の実践は、「町」と「住まい」という土台によって支えられている。「町」や「住まい」を住みこなす、という視点を持つと、必ずしも今住んでいるところが、良いとは限らない。そこで住み替え、移住、リフォームという選択肢を提案する。

 まずは、同地域内での高齢者向け住宅への住み替えだ。

「医療・介護の安心を求めて地元地域内で、家の手入れや管理に手間のかからないサービス付き高齢者向けの賃貸住宅、シニア向け分譲マンションへの住み替えです。これまで培ってきたご近所さんとの縁が切れることはありません」と京都府立大学の檜谷美恵子教授が紹介する。介護施設とは異なり、家族と近居、同居できるので安心感は増す。

 もうひとつは大都市から地方都市への移住という選択肢だ。

 近所付き合いの機会が乏しい大都市の集合住宅での暮らしは、高齢者の孤立を招き、老化も早い。

 一方、多少の煩わしさは伴うものの、近所付き合いが欠かせない地方都市は、三つの習慣を実践しやすい。主たる産業の乏しい自治体は、高齢者福祉ビジネスを一大産業と位置付け、高齢者施設や生活支援サービスに注力している。東京は団塊世代が後期高齢期に入る2025年には生活支援サービスの担い手不足、介護施設の不足が懸念されている。

 いよいよ最期を迎えるときの生活支援、訪問看護の充実度も気になるところだ。

 厚生労働省医政局調査によると、訪問看護利用者の数が多く、訪問看護事業者の数が多い都道府県では、在宅で死亡する者の割合が高いという調査結果がある。

 上位は長野県、滋賀県、京都府、兵庫県など概ね地方都市だ。

 さらに生活コストの面から見ても、東京23区の家賃を100とすれば、松山市37.5、大分市37.8といった安さだ(フィデリティ退職・投資教育研究所)。日本中で空き家が増加しており、移住者には無償で空き家を提供するところもある。

 安心して老いることのできる地方の町への移住は、大胆かつ合理的な準備だ。故郷に近く、多少の地縁のあるところなら、決断もしやすい。

 ただし、地域に溶け込み、人とのつながりをつくっていくには、何年もかかる。引っ越すなら早ければ早いほど良い。

 あくまでも最期は住み慣れた自宅で、というなら老化第3段階仕様にリフォームするという選択肢もある。

 一戸建てに住んでいる人は、生活の場を1階へまとめてしまうことをお勧めする。広すぎて管理がしにくいからだ。併せてワンルーム化し、すべてが見渡せて、生活動線も単純になるため、掃除、片付け料理がしやすい。

 やがては食事、排泄、入浴という生きるための最低限の活動がすべて、という老化第3段階が訪れる。それを見越して、キッチン、トイレ、浴室の水回りの位置を近接させ、使い勝手を良くしておくことが大事だ。また安全を考慮し、炎の出るガスからIHクッキングヒーターへ、照明スイッチは1カ所に集約するなどの工夫もできればやっておきたい。

 老化が進むにつれ、室内にいる時間が増す。家の中で一番居心地の良い場所を、自分の居場所と決める。自分の居場所は、外を歩くご近所さんから見えることが望ましい。

 いつもの場所にいないことで、異変を察知できるからだ。また、気軽にご近所さんが訪ねてきて、世間話ができるスペースもあれば良い。必ずしも家の中である必要はない。雨に濡れない軒下に椅子とテーブルを置く対処の仕方もある。

「現代の住まいはプライバシーを重視するため、閉鎖的な造りが一般的ですが、最期まで自宅を貫くなら、あえて住まいを外へ開き、ご近所付き合いを保ったほうが良いでしょう。見守り効果も得られます」(前出の檜谷教授)

 こうした住み替え、移住、リフォームは、老化第1段階までにやったほうが良い。老化が進むと環境の変化に対応することが難しくなる。新しい間取りや設備の使い方に慣れずに混乱が生じ、使わずじまいになることもあるからだ。

 天は自ら助くる者を助く、という。

 最期まで自宅で暮らすという目標を達成すべく、意欲的に三つの習慣を実践し続ける過程こそ、老いの人生そのものではないか。

週刊朝日  2017年11月24日号より抜粋