マイ・ウィッチズ・ブルー
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新生小曽根トリオのお披露目作
My Witch’s Blue / Makoto Ozone (Verve)

 9月8日に東京国際フォーラム ホールAで開催された<東京JAZZ>夜の部のトリは、オーネット・コールマンのはずだった。ところが直前になって出演をキャンセル。体調不良は致し方ないが、楽しみにチケットを購入したファンには残念なこととなった。

 この窮地に主催者が救いを求めたのが、同夜の出演者である小曽根真だ。本番までわずか2日間しか時間がない状況の中で、小曽根は特別セッションのディレクターという大役を引き受けることを決意。何が提供されるのか、蓋を開けてみるまで観客にはわからなかったのだが、ステージの冒頭で小曽根は個人的にはオーネットの音楽とはほとんど関係がなかったことを明らかにした上で、健康の回復の願いを込めたプログラム編成を告知。ステージが進むにつれて、同日の出演者がオーネットの楽曲を演奏するジャム・セッションの様相を呈した。このようなセッションは<東京JAZZ>がまだ味の素スタジアムで開催されていた初期の成果であり、国際フォーラムに定着してからは封印されていた企画が、アクシデントをきっかけに甦った点で、思わぬ収穫と言うべきだろう。ラスト・ナンバーの「ランブリング」ではエリス・マルサリス、ジョー・サンプル、マティアス・アイク、レイ・パーカーJr.ら、常識的にはありえない顔ぶれで“V.S.O.P.”状態に。さらに小曽根がアンコールに応えて、ピアノ独奏で「ロンリー・ウーマン」を披露するに至り、会場内には感動の空気が醸成された。限られた条件の中、選曲・配役共に最上のプログラムを作り上げた小曽根の手腕が男を上げた一夜であった。

 これは同夜の1組目に登場した新生小曽根トリオのお披露目作である。小曽根はジェームス・ジナス+クラレンス・ペンとのトリオで約10年間活躍していたが、6年前に活動を休止。直前にインタヴューの機会があり、本人には同トリオでやり切った感覚と、新しい方向への興味が湧いてきたのがその理由とのことだった。新生トリオはバークリー音大の学友で同世代のジェフ“テイン”ワッツと、2000年に知り合ったクリスチャン・マクブライドという、実績では以前のトリオを超える実力者を獲得。昨年のチャリティCDで1曲共演したことがきっかけとなり、本作に発展したわけだ。1曲を除く9曲を書き下ろしの新曲で固めたことからも、本作に特別な思いで臨んだ小曽根の心境がうかがえる。

 セロニアス・モンク風ピアノが弾む#1、生命力溢れるベース・ソロが小曽根との好相性を示す#2、アップ・テンポでトリオの一体感を打ち出す#3、重量感があって切れ味鋭いワッツのドラムスがトリオを推進する#6等々、どの楽曲も充実している。レコーディング風景を篠山紀信が撮影したことでも話題の新作だ。

【収録曲一覧】
1. Bouncing In My New Shoes
2. My Witch’s Blue
3. Gotta Get It
4. Longing For The Past
5. So Good
6. Take The Tain Train
7. Time We Spent Together
8. Nova Alvorada
9. Solo Improvisation “Continuum”
10. Satin Doll

小曽根真:Makoto Ozone(p)(allmusic.comへリンクします)
クリスチャン・マクブライド:Christian McBride(b)
ジェフ“テイン”ワッツ:Jeff “Tain” Watts(ds)

2012年5月ニューヨーク録音