北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原氏は今回の衆議院選挙で歴史の真理を垣間見た(※写真はイメージ)北原氏は今回の衆議院選挙で歴史の真理を垣間見た(※写真はイメージ)
 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は今回の衆議院選挙で歴史の真理を垣間見た。

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 この原稿が掲載されるころには衆議院議員選挙の結果が出ている。今の私は、投票日まであと2日という日本にいるけれど、さて22日以降、ここはいったい、どんな日本になっているんだろう。

 たった1日で、いや1日に何度でも、政治の流れは驚くほど変わることがある。そして人の運命も、一瞬にして激変する。そのことを、これほど突きつけられ続けた選挙戦はなかった。

 今思えば、山尾志桜里さんの「不倫」報道は、引き金だったのかもしれない。政局が安定している時の無名議員の不倫ならば、誰も気にとめなかっただろう。ところが、安倍政権を追い詰めてきたスター議員による「不倫」報道は、民進党の再起をかけた「最後」の闘いの最中だった。不倫の是非を問うつもりはないけれど、今回の不倫で変わったのは山尾さん一人の人生だけでなく、日本の政治の流れだったのではないか。

 再スタートを切ったばかりの民進党の呪われ感を深め、人気議員を“切り捨てた”民進党批判が高まり、安倍さんを追い詰めるはずの野党の頼りなさに人々のやるせなさが広まりつつある中、「北朝鮮の脅威」を喧伝する安倍さんにとってのベストタイミングでの衆議院解散だ。「不倫」から「解散」まで、約3週間。は・や・い!

 
 もちろん、そこ、一本の線で単純につながっているわけじゃない。だけど人類の歴史が私たちに教えてくれるのは、大きな転換の引き金は、とっても小さなことかもよ、という真理。歴史を動かすのは、ミサイルの脅威よりも、小さな恋の小さな油断から……と思えばこそ歴史は面白い。今回の「不倫」報道、日本の運命を変えた「世紀の『不倫』」でしたと、後の歴史で位置づけられる可能性だってある。「不倫」報道を否定しているのに、山尾さん、ゴメンナサイ。でも、山尾さんが規模のデカい人であることは確かでしょう。

 そして、今回ほど様々を暴いた選挙戦もなかった。小池百合子氏の傲慢、泥船感たっぷりの民進党から真っ先に逃げ出す議員たちの横顔、前原氏の意味不明な錯乱、そして裏切られた者たちの覚悟が生んだ立憲民主党など……ほんの少し前には全く予想もできなかった現実が次々に現れた。つくづく突きつけられたのは、風を読むことに長けた政治家が読もうとする空気、乗ろうとする風の向きも、一瞬で変わってしまうということ。であれば、私たちに必要なのは、空気や風を読む力や、流れを力ずくで変えようとコントロールする政治家ではなくて、人々に真実を伝えて信用を得ようとする政治家だ。そして、政治家を簡単に信用せず、疑いを持ちながら「監視」する、こちら側の冷静な判断力なのだろう。

 さて、まだ投票日まで2日ある日本は、台風上陸を間近にワサワサした空気が流れてます。来週の私は、どんな空気を生きているのでしょう。台風一過、清々しい日を迎えられていますように。

週刊朝日 2017年11月3日号