血税635億円もかけた衆院選は自民党が283議席(追加公認含む)と大勝、公明党とあわせて全議席の3分の2を上回る勢力となり、憲法改正の発議が可能となった与党。歴史家の加来耕三氏は今回の総選挙を「関ヶ原の戦い」に例え、分析した。
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今回の衆院選は、天下分け目の決戦と言われながら、わずか半日で決着がついた関ヶ原に例えられます。選挙戦も小池百合子氏と安倍晋三首相の激戦になるかと思いきや、小池氏が「排除の論理」で急失速し、序盤で大勢が決まりました。
党代表なのに出馬しなかった小池氏は、西軍の大将ながら大坂城にこもって動かなかった毛利輝元でしょう。戦を仕切った石田三成は小池氏側近の若狭勝氏や細野豪志氏でしょうが、さまざまな思惑を持つ武将の寄せ集め集団である西軍=希望の党をまとめるカリスマ性が足りなかった。関ケ原では「裏切り」が勝敗を決めた。選挙後、希望の党が改憲勢力として安倍政権につくかはわかりませんが、仲間が「排除」されるのもいとわず民進党を希望に合流させた前原誠司氏は、関ケ原最大の「裏切り」を演じた小早川秀秋か。
負け戦でも筋を通して奮闘して名を上げたのは、裏切りにあいながらも立憲民主党を立ち上げた枝野幸男氏らでしょうか。石田三成の家臣・島左近や、小早川の裏切りを予見して備えていた大谷吉継と重なります。
安倍首相は東軍の大将・徳川家康です。実は関ケ原の戦いは西軍側の武将らの裏切りという“敵失”であっさり決着がついてしまった。その上、手柄を立てたのは福島正則ら徳川方についた豊臣家の武将ばかりで、戦後もしばらくは家康の全国支配が確立しなかった。今回の勝利は小池氏の“敵失”が大きく、安倍首相が国民に信任されたとは言いづらい。国政には課題が山積み。圧勝したが後が大変、という状況ではないでしょうか。(構成/本誌・小泉耕平)
※週刊朝日 2017年11月3日号より加筆