途中で画面がモノクロになり、インタビュー映像が挿入される。ミックがアルバム制作の背景を語り、キースは当時を振り返って「成長期だった! いろんな音楽を聴き、違う人とセッションをし、経験を積んだ時代だった。それが反映されて成熟したアルバムになった」と述懐する。
アルバム発表時に注目を集めたジッパー付きのジャケットにも話題が及び、封入されたブリーフ姿のモデルが誰だったのかというエピソードなども面白い。
他にも随所で挿入されるインタビューは本作の見どころにもなっている。キースが、かつて本コラムでも紹介したサックス奏者ボビー・キーズの思い出を語るシーンは泣かせる。
ライヴに話を戻そう。
ミックが生ギターを手にして歌う「デッド・フラワーズ」は、曲調もミックの歌唱もカントリー・テイスト。ロン・ウッドの演奏が流麗で丹念だ。次いでミックが“カントリー調が続くよ!”と歌う「ワイルド・ホース」は、サザン・ソウル的な趣。キースが「ミックと書いた自慢の曲!」と誇らしげに語っている。
『スティッキー・フィンガーズ』は、「ブラウン・シュガー」をはじめ強力なロック・ナンバーが目立つ一方で、暗い作品も存在感を示している。代表的な曲が「シスター・モーフィン」。本作では、その演奏の前にミックが“アルバムには60年代っぽいドラッグの隠語が満載!”と言い、キースが“アルバムの制作中、ありとあらゆるドラッグに浸ってた!”と白状する。
その「シスター・モーフィン」のミックの歌は、曲そのままに不気味だ。その形相やアクションなど芝居がかった入魂の歌いぶりは実に奇っ怪で、あっけにとられる。同時に、ロン・ウッドの絶妙なスライド・ギターの手腕に目をみはる。素晴らしい演奏だ。
キースがスライドによる12弦ギターを演奏するフォーク・ブルース調の「ユー・ガッタ・ムーヴ」は、渋く、枯れた味わいを醸し出す。年輪のなせる業だ。