北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原氏は、民進党の前原代表に「騙された」という(※写真はイメージ)
作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、民進党の前原誠司代表に「騙された」という。
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友人の夫の母(80代)が詐欺にあったという。銀行員を名乗る男が家に来て、なんだかんだと理由をつけてキャッシュカードを持っていき数百万円を引き出してしまったのだ。当然、警察沙汰になったが、夫の母は家族には一切詳細を語らないという。友曰く、「いつも詐欺にひっかかる人をバカにしてたのよ。だから現実を受け入れられないんだよ」ということだった。
と、そんな話から始めているのも、私も、ここ数日間、誰かに確認したくてしかたないのだ。私は詐欺られた可能性がある。でも、この現実を受け入れるのが、非常に苦しいのです。前原誠司に詐欺られた可能性があるんです。
安倍政権を終わらせるため、そして元衆議院議員でジャーナリストの友人である井戸まさえさんを応援するため、1年前に民進党のサポーターになった。当然、代表選にも通い、「経済政策ではなく社会政策をとる、オール・フォー・オール」と演説した前原さんを応援した。前原さんは右寄りだよ、顔が嘘くさいよ、など前原さんを批判する友には、「前原さんは社会主義的な政策を打ちだしてるよ」「外国人参政権を認める人が右翼なはずない」「次の選挙の候補者の半分を女性にすると約束してたよ」「前原さんの顔、悪くないよ」と説明していたのだ。
信じる者は安定している。私は、前原さんが希望の党と合流する、と宣言した時ですら、「希望の党なんて人材不足に金不足。中に入ればこっちが多数」と理解していたのだ。「甘いよ、百合子に丸のみされるだけでしょ」と疑う友にも「丸のみさせていただくのは民進党」とか言ってたのだ。
それがどうだ。朝言ってたことが夜変わる。数時間前のニュースも、新聞に書かれていることも、翌日にはひっくり返る。何を信じていいかわからない夜を過ごし、だけどこんな夜も百合子(呼び捨てします)は策略練りながら顔のパックとかしてそうだよね、でも前原さんは苦しんでるよね、と前原さんに同情していた私。その私が受けた、「全ては想定内」と、久しぶりにカメラの前に登場した前原さんが黒い笑顔で言い放った時の衝撃は……ご理解いただけるだろうか。げっそりして頭下げて謝るどころか、はなから希望の党に民進党の前議員が全員行けるわけじゃなかったことも、全て想定内だと微笑んだのだ。
私……被害者ですよね。詐欺にあいましたよね。でも、詐欺被害者の常として、「騙されるほうが悪いのかもしれない、騙されるなんて恥ずかしいことなのかもしれない」という自責の念。ああ、恥ずかしい、ああ悔しい、いったいどこに訴えたらいいんでしょう。選挙に行くしかありません。
ちなみに私が詐欺に遭遇した日、時々買ってたやけに高いオーガニックブランドシャンプーの成分表示が、ほぼ嘘だったことが発覚。ノンシリコーンを謳っていたのにシリコーンが入っていたとかいう詐欺。人を信じるのが怖い。使いかけのシャンプーを前に、泣いてます。
※週刊朝日 2017年10月20日号