田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
田原氏がこれまでの「小池劇場」を振り返る(※写真はイメージ)
「希望の党」を立ち上げた小池百合子東京都知事。ジャーナリストの田原総一朗氏がこれまでの「小池劇場」を振り返る。
* * *
9月29日付の朝日新聞の社説は、安倍晋三首相による衆院解散についてこう批判した。
「そもそも臨時国会は、野党の憲法53条に基づく召集要求を、3カ月余も放置した末にようやく開いたものだ。なのに議論を一切しないまま解散する。憲法を踏みにじり、主権者である国民に背を向ける行為だ。首相の狙いは明白である。森友学園・加計学園の問題をめぐる野党の追及の場を消し去り、選挙準備が整っていない野党の隙を突く。今なら勝てる。勝てば官軍の『権力ゲーム』が先に立つ『自己都合解散』である」
野党はもちろん、多くの国民が今回の解散を、このようにとらえただろう。
民進党は議員が次々に離党しまとまらない。一方、若狭勝氏、細野豪志氏らの「小池新党」もビジョンらしきものがなく、有権者の関心を呼びそうにない。それに民進党と「小池新党」が票を食い合えば、自民党にとって有利になる。安倍首相は、このように判断したのだろう。
ところが、安倍首相が予想しなかった事態が生じた。小池百合子東京都知事が「希望の党」を立ち上げ、その代表になると宣言したのだ。安倍首相が解散を表明したのと同じ9月25日のことだ。この瞬間からメディアは小池一色になった。
小池百合子という存在は余人にはないカリスマ性があり、小池氏の存在自体がビジョンとなる。都議選のとき、都民ファーストの会には具体的な政策らしきものは何もなかった。それでいて、知名度も実績もない候補者たちが、小池都知事が率いているということだけで、なんと49人も当選したのであった。自民党は23議席と惨敗だった。
小池氏は衆院の過半数である233議席を確保するための候補者を擁立すると表明した。民進党が希望の党に合流することは、安倍自民党にとって大きな脅威になる。安倍首相も強い衝撃を受けたはずだ。
自民党内部でも「公明党と合わせても233議席の獲得は無理かもしれない。220台に落ちれば安倍退陣も起き得る。そのとき、安倍氏に代わる首相は誰が良いか」という話題まで出たということだ。安倍首相は公明党と合わせても233議席を獲得できなかったら辞任する、と表明しているのである。
ところがその後、小池代表は「(民進党から)全員を受け入れることは、さらさらない」と言い切った。候補者を選別するというわけだ。
希望の党は集団的自衛権の行使にも憲法改正にも賛成している。だから、こうした基本的な考え方の異なる議員は受け入れない。つまりリベラル派は外すということだ。そこで民進党内で混乱が生じ、枝野幸男氏は立憲民主党を立ち上げると宣言した。同党には数十人が参加するのではないかとみられている。
立憲民主党が社民党や共産党と連携することで、衆院選は三つの勢力が争う構図となった。安倍自民党には大義なき解散という疑惑がつきまとい、希望の党は政策が明確でなく、自民の補完勢力になるのではないかとの疑いが生じる。さて、有権者はこの選挙に、どのような判定を下すのか。
※週刊朝日 2017年10月20日号