藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務努めた。2013年7月の参院選で初当選。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)
雑誌「THE INTERNATIONAL ECONOMY」
“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、海外から「日本病」と批判される日本経済の状況について、危機感を持つべきだと指摘する。
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私が英国に赴任した1982年、経済が低迷して「英国病」真っ盛りだった。英国とアルゼンチンが争ったフォークランド紛争の勃発直後。「アルゼンチンに爆撃されたら、地下鉄に逃げ込めよ」と脅しのような励ましを受けながら赴任したことを覚えている。
当時、地下鉄は動く灰皿だったうえ、ストでしょっちゅう止まり、公衆電話の7割は壊れており、ごみ収集車が動かずに街がくさかった。「英国病」とはまさにこういうことか。妙に感心したのを覚えている。
先日、「THE INTERNATIONAL ECONOMY」という雑誌が送られてきた。世界的に権威ある経済誌だ。
各国の元財務相、元中央銀行総裁、元銀行頭取やチーフエコノミスト、ハーバード大、ロンドン大など著名大学教授ら、そうそうたる論客が寄稿している。2017年夏号の特集は「Japan Disease(日本病)は世界に蔓延するか?」だった。
かつて「英国病」と揶揄された英国に代わり、世界は今や日本経済を「日本病」と名付けているのだ。世界から、当時の英国並みの状況とみられているのかと思うと、あまりに情けない。「デフレから脱却できない国」などという生やさしい分析ではない。
世界がこれほどまでに「日本経済に問題あり」と考えているのを、日本人は知っているのだろうか?
財政出動と金融緩和を極限まで発動しても、日本の名目GDP(国内総生産)はこの30年間でわずか1.5倍にしかなっていない。米国は4.1倍、英国は4.9倍、韓国は17.8倍、中国は何と75倍にも増えているのに。
この事実にこそ目を向けて原因を分析し、改革しなければならない。小手先ではなく根本的な改革だ。それが政治家の務めだろう。
ただ、送られてきた雑誌に記されていた原因分析や解決案は、表面的でしかないと思った。他国の学者やアナリストは、日本人からの聞きかじりの話をたいそうな論文に仕上げる。モルガン銀行時代によく経験したが、あの時と同じだ。
私にも寄稿依頼が来ていたのだが、都議選の応援で忙しく、英語原稿を書く余裕がなかったのが残念だ。
私は、30年間の日本経済の低迷は「日本が世界最大の社会主義国家」だったから、と考えている。行きすぎた格差是正で結果の平等を求め、相変わらず規制が多く、世界に冠たる国民皆保険を自慢している大きな政府の国なのだ。その結果が「国力に比べて強すぎる円のレベル」にもつながっている。
それが私の分析で、改善しないと日本の未来はない。日本国内では、「資本主義は終わった」などという主張をよく聞くが、そうではない。「日本は社会主義だった」から、ダメになったのだ。資本主義を積極的にとり入れた中国はこの30年間で、名目GDPを75倍にもしている。
※週刊朝日 2017年10月13日号