ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動するミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
今回のテーマは「安室奈美恵」(※写真はイメージ)今回のテーマは「安室奈美恵」(※写真はイメージ)
 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「安室奈美恵」を取り上げる。

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 突然の引退宣言により、各紙で『安室奈美恵論』旋風が巻き起こっている様子。中年女装だらけの楽屋で第一報を聞き、思わず「40歳を節目に引退されちゃったら、私らの立つ瀬ないじゃない!」と口にしてしまいました。

 安室ちゃんは、聖子・明菜・ユーミン世代の『昭和ガマ』と、あゆやPerfumeがアイコンの『平成ガマ』を繋ぐ数少ない日本の歌姫です。彼女には古き良き芸能界・歌謡界特有のスター風情(光と影)があります。言うならば、安室奈美恵という歌手は、私を含め『昭和ガマ』が信用できる最後のアイドル歌手なのかもしれません。

 私が初めて安室ちゃんを見たのは高校2年(17歳)の秋。通っていた男子校の文化祭にデビュー間もないスーパー・モンキーズという沖縄出身の5人組がやって来て、その真ん中にいたのが当時14歳の安室奈美恵でした。それまでの女性アイドルにはないディーバ的歌唱とリズム感に度肝を抜かれ、その日の帰りにデビュー曲『恋のキュート・ビート/ミスターU.S.A.』のCDを買いました。以来、忙しい青春期を過ごす傍ら、ずっと頭の片隅でスーパー・モンキーズが、延(ひ)いては安室奈美恵が売れる日を心待ちにしていたような気がします。こんなことを言うと、まるで「自分は最初から安室に目をつけていた」アピールをしているようですが、事実『全校生徒約3千人の男子校で歌っておきながら、引っかかったのは私のようなオカマぐらいだった』状態で、安室ちゃんのキャリアはスタートしたのです。そして数年後、彼女が時代の象徴になったちょうどその頃、私は新宿2丁目にデビューをし、同じように『ひっそりと安室に引っかかっていたゲイやオカマたち』を目の当たりにし、それまで誰とも共有できなかった『はみ出た感性』の拠り所を見つけて嬉しい気持ちになったのを覚えています。

 2000年代に入り、安室ブームが過ぎ、いわゆる『低迷期』とされる時期(2004~2007年ぐらい)も、むしろそれまで以上の熱量で彼女の人気を支え続けたのは、2丁目を始めとする全国のゲイシーンでした。今年で12年目となる『安室奈美恵ナイト』は毎回溢れんばかりの盛況っぷりで、安室ちゃんが9年ぶりに1位を獲得した2008年には、ご本人がお忍びで訪れたほど。かく言う私は、ゲイシーンにおける熱狂が高まるほどに、その勢いとスピードについていけなくなり、いよいよ『昭和ガマ街道』まっしぐらのまま現在に至ります。それは私にとって『歳をとった象徴』であり、10年以上『安室ちゃんをフォローすることを諦めてしまっている』事実は、音楽好き・アイドル好きとしてまさに不徳の致すところでもあるのです。正直『引退宣言』に際し、まず頭をよぎったのは「これでもう焦らずに安室ちゃんの音楽と向き合える」ということでした。これからはゆっくりと『失われた10余年』を堪能しようと思います。

 先の沖縄ライブで22年ぶりにデビュー曲『ミスターU.S.A.』を歌った安室ちゃん。個人的には、その衝撃と興奮が冷めやらぬ内に『引退』のニュースが飛び込んできたため、妙に納得できてしまった感があったのも事実。次回は、後世に残すべき名曲『ミスターU.S.A.』について積年の想いを綴るつもりでいますので、どうぞお楽しみに。

週刊朝日 2017年10月6日号