その対極が、パソコンに代表される水平分業の「モジュール型商品」。付加価値は部品とサービスに移り、ありふれた商品となるコモディティー化が進み、組み立て産業の「うまみ」は減少した。EVもパソコンと同じ範疇(はんちゅう)に入る。
VWの変革は、すさまじい。あえて言えば、クルマのコモディティー化を進めて日本の強みをそぐ戦略にも見える。ダイムラーやBMWも、それに追随する。
「我々が直接クルマをつくる必要性があるのか」。VW社内では今、こうした議論が盛んという。あまり知られていないが、実はVWが自らクルマをつくらなくても、立派に生産できるしくみをドイツの自動車産業は持っている。
量産以外の開発から試作までを請け負うエンジニアリングサービス会社が台頭しているからだ。ドイツのFEV社や隣国オーストリアのAVL社などで、その開発能力はVWにも負けない。実際、ホンダが新型シビックのエンジンを、AVLに開発委託したほどだ。
VWはブランド管理や次世代技術の戦略構築など高次元の仕事に注力し、自動車ビジネスを時代の流れに合った新産業としてくくりなおすことをねらっている。その動きを分析した日本の自動車メーカーの中堅幹部は、こう説明する。
「ハードをつくって利益を出すのではなく、モビリティーサービスのプラットフォーマー(基盤事業者)になろうとしている。販売台数を一時的に落とすだろうが、時代の流れを考えれば正しい戦略だ」
モビリティーサービスとは、カーシェアや自動運転関連などの事業。こうした大変革を日本の大企業が実施しようとすると、「社内抵抗勢力」が阻止に動く。しかし、VWはエンジン部門など社内権力を握っていた組織が、ディーゼル不正の影響で力を失った。代わって台頭したのが、人間工学や社会工学の専門家が入った文理融合の「フューチャープロジェクトチーム」。新戦略策定に、大きな影響力を持つようになった。