新型「リーフ」を発表する日産自動車の西川廣人社長(c)朝日新聞社
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フランクフルトモーターショーでBMWが発表したEVの試作車(c)朝日新聞社
フランクフルトモーターショーでBMWが発表したEVの試作車(c)朝日新聞社
EVを巡る最近の動き(週刊朝日 2017年9月29日号より)
EVを巡る最近の動き(週刊朝日 2017年9月29日号より)

 日本の基幹産業、自動車ビジネスが今、危機に直面している。米国やドイツを震源地に劇的なパラダイムシフト(大転換)が起きているのに、その流れに追いついていけない。ジャーナリスト・井上久男氏が危機の真因を探った。

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 第一の危機は、電気自動車(EV)化の急速な進展だ。

 ドイツで9月12日に始まった「フランクフルトモーターショー」に先立ち、フォルクスワーゲン(VW)が開いた記者会見。2025年までにEVを50車種投入し、200億ユーロ(約2.6兆円)を投資すると発表した。従来計画は30車種程度だった。

 主力車「ゴルフ」のEV版を17年2月から発売している。1回の充電での航続距離は約300キロ。その時点では、EVで先行する日産自動車の「リーフ」の280キロを上回った。

 世界販売でトヨタ自動車とトップを争ってきたVWの転換は、下請け企業も含めて産業構造に大きな影響を与えそうだ。EVはディーゼル車やガソリン車に比べ、部品点数が少なく、生産体制も変更する。VWはドイツ国内で全従業員の8%に当たる2万3千人を削減する計画だ。

 ドイツ勢のEVシフトは鮮明で、ダイムラーやBMWもEV事業を強化する。中国や英仏、米カリフォルニア州などで環境規制が強まり、内燃機関(ガソリンやディーゼル)の販売を抑制する動きが強まっているからだ。

 こうした動きを加速させたのは、皮肉なことにVW自身。15年に発覚したディーゼルエンジンの不正試験が、世界各国の規制当局を刺激した。「VWは自社の不正を機にEVにシフトし、産業構造を一気に変革して最大のライバル日本メーカーを引き離す戦略ではないか」(日本メーカー幹部)との見方もある。

 各地の変化で共通するのは、内燃機関とモーター併用で日本が得意なハイブリッド車を、エコカーの定義から外している点だ。

 ハイブリッド車は部品点数が多く、別名「雇用創出車」とも呼ばれる。部品・素材から完成車のメーカーまで、垂直統合的な産業構造の中で部品と部品を調和させながらつくり込む「すり合わせ型商品」の典型だ。組み立てノウハウにも付加価値があり、日本の製造業が得意としてきた分野だ。

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