
フランスと日本を行き来しながら、女優・作家として活躍する岸恵子さん。女優としての活躍と男性の話、エッセーにも書かれた、高校生のころの夜汽車でのエピソードなど、作家・林真理子さんとの対談で大いに盛り上がりました。
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林:男の人はすぐ、岸さんに夢中になるでしょう。
岸:私、男にモテないの。
林:ご冗談ばっかり。
岸:ほんとうなのよ。私が若いころは、マリリン・モンローとかジーナ・ロロブリジダのような豊満な肉体派が全盛のときで、私みたいな割り箸は女と思われていなかった。でも、ご心配なく。海外では大いにモテています(笑)。一概には言えないけれど、日本の男性は「黙って俺についてこい」的な女性が楽なんじゃないかしら。そのうえちょっとふっくらしていれば申し分ない(笑)。池部良さんなんて「惠子ちゃんの手は骨だらけで、スープのダシにもならないね」ってよく冗談で私をからかいました。私は良ちゃんが大好きだったの。知的で、広範な教養もあって、それに彼独特のユーモアがあふれた嘘八百もおもしろかった。
林:嘘八百ってどんな?
岸:「雪国」での出演コメントで、「僕も東宝を背負う一応の看板俳優だ。なぜ、見ず知らずの、頭に白いキャベツみたいなものを被った女優さんと付き合わなければいけないんだ!」って言ったの。白いキャベツは「君の名は」の真知子巻きのことだけど、見ず知らずなんて嘘ばっかり。その前に小津(安二郎)監督の「早春」で3カ月くらい、恋人役をやっているんです。でも怒れない。噴き出すほどおもしろいんですもの。良ちゃんとは恋愛とか友情とかとはまるっきり違う、あうんの呼吸があったんです。亡くなって奥様から「惠子ちゃんとはもう一度一緒に飯を食いたかったなあ」と言っていたと聞いて胸がいっぱいになりました。
林:ここにも出ていただいたことがありますけど、品があって端正なお顔立ちで、すてきでした。『わりなき恋』は、岸さん主演で映画化されると思っていたら、一人舞台の形になさったんですね。
岸:ええ、舞台は慣れていなかったのでちょっと怯みましたが、結局は自分で脚色して、衣装も全部自分でそろえて2年間やりました。新しい形の朗読劇で、自分で言うのは変だけれど、大変盛況だったんです。