林:岸さんのデビュー作ですね。それが大ヒットしちゃって。

岸:その年に主役、準主役含めて12本か13本撮って、女優になってしまいました。だから大学も出ていないし。「映画界に入って撮影しながら本を読むなんてできない。勉強は机に向かってやるものだ」と父にさんざん言われましたが、今にして父の言うとおりだったと後悔しています。

林:でも、エッセーの中に難しい本がいっぱい出てきて、よく読んでらっしゃるなと思いました。

岸:全部忘れましたが、本はすごく読みました。活字人間なんですよ。

林:イヴ・シァンピ監督と結婚なさってフランスに行って、フランス語はすぐマスターなさったんですか。

岸:シァンピ家は大変な旧家で、料理人も下働きの女中さんもいて、「ケイコは何もしなくていい」と言われて、ノイローゼになってしまって。それまで日本で2本も3本もかけもち撮影して、歩きながら眠るような生活だったのに、急に何にもしないでいるのは、私にとっては不眠症になるくらいつらいことだったの。だから、1日に8時間、夢中になってフランス語を勉強しました。

林:シァンピ家のサロンには、サルトルとかボーボワールとかいろんな人が来てたんでしょう?

岸:そうなの。もったいなかった。何もわからなかったんですよ。

林:半世紀以上も前から世界をごらんになってきた岸さんにお聞きしたいんですが、今、パリを含め、ヨーロッパ各地でテロが起こっていますよね。この状態をどう思われます?

岸:みんなおびえていますよ。私が暮らしているサンルイ島は平和で、テロとは無縁だったのに、1年前にはカラシニコフを持った兵隊が2、3人でパトロールしていました。今はISが弱くなって、散った人がそれぞれにテロをしているから、ますます怖いんです。うちの娘なんか、やつれていますよ。2人の息子を、それぞれの学校に迎えに行くんです。メトロが怖いんですって。

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