
Part 3 : ミニーがアンタイトルド・ラテンでミスター・フォスターという怪の巻
Complete On The Corner Sessions (Columbia/Legacy)
今回のボックスの内容を最初に伝えたのは、今年1月24日の「ナカヤマを読め!」だったが、その後に変更された点といえば、録音時に"無題"だった曲に曲名がつけられ、CD1枚目が6枚目に移動したことくらい。ただしブックレットに添えられているいくつかの文章が「2000年4月記」となっていることからわもわかるように、ボックスの制作そのものはかなり以前から進行、2000年4月時点でいちおうの完成はみていた。ところがあれやこれやの紆余曲折があり、一度は発売中止(もっとも発売は告知されていなかったために中止という表現は正確でない)、よって『セヴン・ステップス』ボックスが最後の箱と喧伝されたのちの「やっと出せましたボックス」となる。たしかに発売されたのはご同慶の至りだが、すでに述べてきたように今箱も期待を大きく下回り、「出ないよりは出たほうがちょっとはマシか」のレヴェルにとどまり、ワタシ、もういいですよ。
今回のボックスのタイトルは『コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』だが、マイルス箱の無責任な伝統にのっとり、今回もまたタイトルと無関係の『ゲット・アップ・ウイズ・イット』まで収録されている。しかしながら『ゲット・アップ』関連の未発表音源は《エムトゥーメ》の1曲のみという異常事態。すなわちこれは『ゲット・アップ』に収録されている《エムトゥーメ》以外の曲の未発表音源が今後公表される可能性が限りなくゼロに近いことを意味し、いくらマイルス箱制作者が素人とはいえ、これはあまりにもひどい。よってディスク5・6枚目は「新たに聴くべきものがない」という事態を迎える。したがって、またしても『カリプソ・フレリモ・セッションズ』(So What:「聴けV7」:P460)や『セッション・オブ・ヒー・ラヴド・ヒム・マッドリー』(同:P494)の価値がさらに上昇するわけだが、天下のマイルスの貴重な音源がこのようなアンバランスな状況下に置かれていていいのか。いいわけがない。この箱の制作者は、そこのところを激しく、もっと激しく、猛省すべきである。
【収録曲一覧】
●Disc 5:
1 Maiysha/Oct 7, 1974
2 Mtume/Oct 7, 1974
3 Mtume [take 11]/Oct 7, 1974
Miles Davis (tp, org) Sonny Fortune (ss, fl) Pete Cosey (elg) Reggie Lucas (elg) Dominique Gaumont (elg) Michael Henderson (elb) Al Foster (ds) Mtume (per)
ディスク5枚目の最初の2曲は『ゲット・アップ・ウイズ・イット』収録と同一テイク。3曲目の《エムトゥーメ》が別テイク(テイク11)となっているが、ソニー・フォーチュンのノー・アイデアぶりが遺憾なく発揮されているサックス・ソロが苦しく、これはどう聴いてもボツでっせ。次に出るマイルスのソロはマスター・テイクとほとんど変わらず、「ひょっとして同じものでは?」と思わせる。おまけに演奏時間はマスター・テイクの15分に比して約7分と短く、こんな中途半端なテイク、あえて収録する必要はないってことがどうしてわからなかったのだろう?
4 Hip Skip [Untitled Original (take 2)]/Nov 6, 1974
5 What They Do [Untitled Original (take 14)]/Nov 6, 1974
Miles Davis (tp, org) Sonny Fortune (ss, ts, fl) Pete Cosey (elg, ds-4, per) Reggie Lucas (elg) Dominique Gaumont (elg) Michael Henderson (elb) Al Foster (ds-5) Mtume (per)
この2曲に関しては『アンノウン・セッションズVol.4』(So What)に、より完璧なセッションが収録されている。ちなみに前者は同CDの3曲目、後者は4曲目から6曲目にわたり、詳細をきわめる。さらに、この日のセッションから生まれた音源は『同Vol.3』の3曲目にも収録されている。そういったブートレグといちいち比較する要はないかもしれないが、それらブートのほうがはるかに"セッション"として価値ある編集の仕方がなされていることを思えば、やはりこの箱のクオリティは糾弾されて然るべきだろう。早い話、プロの仕事ではない。ともあれこの日のセッションに関しては、上記2枚のソー・ホワット盤が必要となる。なお前者のドラムスはピート・コージー、後者がアル・フォスターとなっている。なんでもアルが遅刻したらしい。
6 Minnie [Latin (take 7)]/May 5, 1975→Mr.Foster or Untitled Latin
Miles Davis (tp, org) Sam Morrison (ts) Pete Cosey (elg, per) Reggie Lucas (elg) Michael Henderson (elb) Al Foster (ds) Mtume (per)
ミニー・リパートンの《ラヴィン・ユー》をヒントにマイルスが作曲した曲。したがって箱関係者が勝手に《ミニー》なるタイトルをつけたわけだが、すでにこの曲は《ミスター・フォスター》という正式な曲名を授けられ、アル・フォスターのリーダー作でレコーディングされている。またブートレグでは、《アンタイトルド・ラテン》として『アンノウン・セッションズVol.1』(So What)に収録されている。そういった事実をまったく知らない人間が音源の発掘作業にあたり、箱の監修までしてしまうのだから恐ろしい。ラテン・タッチの明るい曲という以外、とくにつけ加えることはありません。
●Disc 6:
1 Red China Blues/Mar 9, 1972
2 On the Corner/New York Girl/Thinkin' of One Thing and Doin' Another/Vote for Miles/Jun 6, 1972
3 Black Satin / Jun 1,1972→Jun 6 and Jul 7, 1972
4 One And One/Jun 6, 1972
5 Helen Butte/Mr. Freedom X/Jun 6, 1972
6 Big Fun/Jul 26, 1973
7 Holly-wuud/Jul 26, 1973
ボックスの最後となる6枚目は、既発アルバムの音源をそのまま収録したもの。基本は『オン・ザ・コーナー』の丸ごと転用だが(2~5曲目)、一般的には6曲目と7曲目が収穫か。いずれもシングル盤として発売されながら、長くフランスCBS制作のオムニバスLP『アイル・オブ・ワイト』、その後は『アナザー・アイル・オブ・ワイト』(So What:P454)なるブートCDでしか聴くことができなかったもの。(完)