「説明会を開く建物の中に医師がいるというだけで、実際にヨウ素剤の説明や個別に服用の可否の確認をするのは薬剤師。実態は薬局配布方式と変わりないのです。しかも、国のガイドラインには医師の関与を必要とする記述はなく、むしろ薬剤師に積極的に協力を求めているぐらい。国と県がひたちなか市にしていることは、いじめと同じです」
さらに問題なのは、3歳未満の乳幼児が飲みやすいように作られたゼリー状ヨウ素剤が、自治体の独自予算で購入できない点だ。
内閣府は昨年7月、原発から30キロ圏内の全国の自治体に対し、30万人分のゼリー状ヨウ素剤を配備することを決め、医薬品メーカーの日医工に製造を依頼した。だが、ひたちなか市が昨年10月、独自配布用として卸業者を通じて注文したところ、日医工から売れないとの返事が来たという。
日医工に確認すると「2016年度分は全量の供給先が決められているので販売は難しいと答えた。今後は生産量との兼ね合いを考える」(社長室)。
つまり国や県の方針で、ひたちなか市は一時期、PAZ圏の3歳未満の乳幼児にゼリー状のヨウ素剤が配布できず、UPZ圏への事前配布用に購入できなくなったのだ。
その後、ひたちなか市では国や県の指針との違いを埋める妥協点を協議し、4月の時点では「医師を『配布管理者』として置く制度の検討や、市の乳児検診で医師が服用の可否を判断することなど」(健康推進課)を検討していた。
当初、内閣府の原子力防災の担当者はこの方式にしても「無診察処方は医師法でも禁止されており、物理的に医師が住民と接触しない『配布管理者方式』は改善の余地がある」として認めない方針だった。
だが、その後の協議を重ね、医師の立ち会いのもとに安定ヨウ素剤を配る「配布会」を開催することで、同時に薬局配布方式も可能となった。配布会に参加できない場合には薬局でヨウ素剤を受け取り、後ほど市に送られてきたチェックシートを配布管理者の医師が確認する形となる。
ひとたび原発事故が起きたらリスクを負うのは周辺住民。原発を再稼働させるなら、何をおいても住民の健康確保を最優先すべきだ。(桐島 瞬)
※週刊朝日 2017年7月7日号