安定ヨウ素剤をめぐる不協和音が……(c)朝日新聞社
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 安倍政権が原発の再稼働を進めるなら、事故の際の甲状腺被曝を防ぐため、立地周辺住民への安定ヨウ素剤の配布は必要だ。だが、配布範囲を広げようとする自治体の動きを、国が妨害する事態が起きていた。

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「住民に配られないのはおかしい。誰のための安定ヨウ素剤なのか」

 3月末に開かれた市民団体と内閣府、原子力規制庁との交渉で、市民団体側が声を荒らげた。

 原発事故の際に放出される放射性ヨウ素を甲状腺が取り込むと、甲状腺がんを引き起こす可能性が高い。そのため被曝が予想される直前に安定ヨウ素剤を服用し、あらかじめ甲状腺をヨウ素で満たしておくことが重要とされる。

 国費で配布する安定ヨウ素剤は、原発からおおむね5キロ圏の予防的防護措置準備区域(PAZ)では、自治体を通じてすべての住民に事前に配る。一方、5キロから30キロ圏の緊急時防護措置準備区域(UPZ)では、公立病院や保健所などに備蓄し、事故が起きたときに配布することになっている。

 だが、福島第一原発事故では混乱の中で配布が十分にできなかった。このときの反省から、いくつかの自治体では独自予算でヨウ素剤を購入し、UPZ圏の住民にも事前に配布する動きが出てきている。

 茨城県ひたちなか市もそうした自治体の一つで昨年8月、PAZ、UPZ圏双方の住民が薬局で受け取れる方式を全国で初めて採用した。

 全世帯に「チェックシート」と説明書を郵送し、飲んでいる薬などをシートに書き込んだ上、配布協力薬局で薬剤師が問題ないと判断すればその場で受け取れる。ところが県は、この方式が国の指針に合っていないとして、事前配布分の引き渡しを拒否する事態となったのだ。

 県によると、本来なら説明会を開いて一人ひとりに医師が適用の可否を判断しなければならない。だが、薬局には医師がいないからそれができないというのが理由だ。薬務課の担当者は「原子力規制庁とも協議の上、配布を認めないことになった」と話す。

 だが、原子力規制を監視する市民の会の阪上武氏は言う。

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