歴史をひもとくと、大正2(1913)年、芝居小屋「南大正座」として建てられた。かわらぶきの重厚な木造建築。1階は4人がけの升席、2階は座敷。1円札を包んだ「おひねり」が吹雪のように飛んだそうである。

 ストリップ劇場に転業したのは昭和30年代。踊り子たちが寝泊まりする楽屋も隣接している。「伝説の踊り子」と呼ばれた一条さゆりや、映画「白日夢」で一世を風靡した愛染恭子も出演したことがある。

 ここには、専業のポスター絵師がいる。大阪生まれの日田邦男さん(75)。父親が映画館や劇場の看板描きだったそうで、その影響もあったのだろう。日田さんも大阪の夕刊紙でデザインの仕事をしたり、東京や大阪のキャバレーで宣伝用ポスターを描いたりしてきた。大きなキャバレー(グランドキャバレー)には「美術部」という部署まであったのである。

 紆余曲折を経て、いまは「DX東寺劇場」で働く。月収6万円。ときには照明係も務める。

 仕事場を見せてもらうと、足の踏み場もない。埃と塗料が混ざったようなすえた臭いが刺激する。失礼ながら決してきれいとはいえないが、赤と青と黄の極彩色が飛び散った部屋の中は、それ自体が現代アートのようにも見える。

「踊り子は、セクシーなだけでは駄目。心の美しさや人生観がにじみ出てくる。私もそれを表現しようと奮闘努力の日々です」

 パソコンは使わず、下書きも鉛筆である。ストリップ業界では「香盤」と呼ばれるスケジュール表に基づき、10日単位でショーの内容が替わる。開演に間に合わせるため、日田さんは泊まり込みでポスターを描くことも多いという。

 大阪・通天閣の近くにある「新世界国際地下劇場」に足を延ばした。劇場の正面に、上映する成人映画3本立てのタイトルがずらりと描かれていた。

「昇天の代償 あなたのいない夜」

「崖っぷちの妻たち 隣のダンナと……」

「抱かれ上手な女 性欲が止まらない」

 いやはや「色の道」に携わる人たちが紡ぎ出す言葉の力はすさまじい。危険な背徳行為にわが身をさらしながら、どうしても愛欲にあらがえずに溺れていく人間の性を、手を替え品を替え、表現してきた。扇情的な文句が泉のごとくあふれてくるのである。

 タイトルの横には、下着姿の艶めかしい女性の絵が掲げられている。思わず見入ってしまった。どんな人が描いたのだろう──。

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