ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「祈ります」というフレーズを取り上げる。

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 公人なのか私人なのか、確かにそれも大事なことです。件の学園とどのような関わり方をしていたのかも、ある程度はっきりさせる必要はあるかもしれませんし、『首相夫人に秘書官が何人も付いている』という部分も、一般市民の私たちの目には、なかなかに映る現実も分かります。

 しかしそれよりも何よりも、この一連の騒動で深く突き刺さったのは、「50、60代の女性たちも、携帯メールで結構な応酬を繰り広げるほどデジタル・IT化は進んでいる」という事実に他なりません。テレビ画面を通しても、かなりの激情型なのは一目瞭然だった籠池夫人ですが、あのキャラクターと信念を、携帯メールにも余すことなく注入できるのは「凄い」の一言です。普通、人の性格は文字に起こした途端、多かれ少なかれ何かしらの変化を起こします。それが『その人の本質』を浮き彫りにすることも含め、手紙やメールというものには、ある程度の『演技』や『修正』が付き物です。なのに何でしょう、あの『寸分違わぬブレなさっぷり』は。「あまりにひどい なぜその情報はどなたからですか 絶対おかしい!」。籠池夫人の興奮度合いが手に取るように分かる一文です。名女優の迫真のアドリブ演技の台詞でもおかしくない切迫感。籠池夫人、まさかSiri使ってる? 徹底して句読点がないところや、語尾や助詞のすっ飛ばし方を見ていると、その真っ直ぐでありのままな感情の込め方に羨ましくさえなってきます。メールやSNSといった新しいコミュニケーションツールにまだ戸惑っているのは、42歳の私の方です。仕事だろうと私信だろうと、オカマ同士の軽口だろうと、どこか変にかしこまったり、無理にフランクにコンパクトにしてみたり、句読点はおろか、顔文字・絵文字、改行に細心の注意を払い、誤解をされない文章を送信することばかりに努める毎日だというのに、友達でも同僚でもない首相夫人に対してひと言、「嘘の情報」って。勉強になりました。夫である籠池氏の証人喚問における、隙はあるけど淀みない受け答えのテンポも、学ぶところが多かったです。夫婦っていいですね。

 一方、アッキーこと安倍昭恵夫人の気質にも、かなりゾクゾクさせられました。必殺の一撃「祈ります」。人とのやり取りの中で、突如こんなにも一方的な意思表示、私にはする勇気はありません。「お祈りします」と「祈ります」では、自らの立ち位置と『祈りの対象』が決定的に違います。このひと言で、どこかすごく遠い場所へ行けますし、あらゆる言葉や感情を遮断することができるキラーワード。現時点で、間違いなく私の中では『2017年流行語大賞』です。かねてから昭恵さんは、独自の視点と価値観で様々な活動をされてきた方ですし、まさに夫唱婦随の概念の中、夫を支えつつも女性の主張や進出を体現する象徴に成り得る存在でした。そこへさらに今回露呈した「祈ります」スタンスの持ち主であるという事実。御しきれない感情をぶつけられた時、自分ひとりの世界に飛べる強さを備え持った人は強いです。宗教心とかとは関係なく、「自分が祈れば、物事は好転するはず!」という厚かましさ。どんなパワースポットへ行くよりも、この感性を高めた方が、人はよっぽど逞しくなれる気がします。今いちばん言いたいフレーズ。「祈ります」と「35億」。

週刊朝日  2017年4月14日号