
またも名盤誕生の予感?ロンドン・ライヴ第2弾登場
Complete Live At Odeon 1983 Vol.2 (So What)
マイルスの生涯にもはや謎など残されていないようにみえるが、ところがところが仔細に眺めれば、まだまだ取り残された謎や空白はある。そのひとつが、1968年の動き。この年、マイルスは何回かスタジオに入ってレコーディングしているもののライヴとなるとほとんど活動していない。しかも6月には休暇をとり、なぜかロンドンまで足を運んでいる。これはどういうわけだろう。ロンドンにどんな用があったというのか。そういえばマイルスとイギリスの関係も謎で、これは考え出すと混乱してくる。ちなみに6月の休暇中、マイルスはデイヴ・ホランドを発見するわけだが、そのホランドをはじめジョン・マクラフリン、ポール・バックマスターなど「赤の時代=エレクトリック期」に重要な働きをしたミュージシャンが複数のイギリス人だったことは興味深い。
さて時代は15年後のロンドン。会場はハマースミス・オデオン。このときマイルスは2日連続で出演したが、27日はすでに登場(聴けV8:P684)、今回は28日となる。ちなみに27日盤は83年物のなかでも屈指の内容と音質を誇り、まあ本音をいえばその翌日のライヴは興味も半減するところだが、そこがブート・マイルスの強みというか(聴き手にとっては)弱みというか、「もういいだろう」と思って聴いたが最後、「聴いてよかった」「よくぞ出してくれた」の心境に陥るのだから、いやはや世話はない。
1曲目は《カム・ゲット・イット》で、おお早くも「言うことなし」のクオリティに達するではないか。マイルスのトランペットの核ならびに全体のグループ・サウンドのど真ん中にパワーがみなぎり、間延びすることも縮むこともなく十分なソリと黒光りが逞しい(ってこの表現、いやらしいですか?)。スコフィールドとスターンの2ギター合戦も無駄打ちすることなく、ある一点に向かってストレートに突進している。この2ギター編成、マイルスが思っていた以上の効果を上げることなく終わったきらいがあるが、ライヴという場においては十全に機能していた(こともある)。1枚目では《スピーク》を間に挟んでのブルース2曲がすばらしい。マイルスのペットに1ミリの弛緩もなし。
2枚目では《スター・オン・シシリー》の険しい表情に引き込まれる。トム・バーニーも意外に健闘、ギシギシとしなるベース音が気持ちいい。テーマをいいかげんに弾き流すスコフィールドも見上げた根性ではないか。またまた名盤誕生といっていいだろう。ただし総体としては僅差で27日が上にくると思う。
【収録曲一覧】
1 Come Get It
2 Star People
3 Speak
4 It Gets Better
5 Hopscotch
6 U 'n' I
7 Star On Cicely
8 Jean Pierre
9 Jean Pierre (encore)
(2 cd)
Miles Davis (tp, synth) Bill Evans (ss, ts, fl, key) John Scofield (elg) Mike Stern (elg) Tom Barney (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)
1983/4/28 (London)