WBCで順調に勝利を重ねる侍ジャパン。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏が準決勝以降の戦い方の違いを語る。

*  *  *

 WBC開幕前に心配した侍ジャパンだったが、杞憂に終わった。1次ラウンドも3連勝、そして2次ラウンドも3連勝。国際大会でこれだけ勝利を重ねられるのは単なる偶然ではない。

 私は以前から国際大会においては、ローテーション、選手の起用法はコンディション優先で、すべては勝利のために決断すべきだと言ってきた。侍ジャパンが常設化されたことによって、寄せ集めではない強さがチームに浸透しているだろうから、選手も起用法が定まらないことに対する不満は少ないだろうと考えていた。

 そんなことを改めて言わなくても小久保監督には覚悟が備わっていたな。監督という職業は、結果によってしか評価されない。代表監督ならなおさらだ。だったら、自分で納得する決断をいかにできるか。その点、1次ラウンド初戦のキューバ戦の石川、則本の状態を見て、当初則本が行くとみられていた2次ラウンド初戦のオランダ戦先発を石川に切り替えた。15日の2次ラウンド第3戦のイスラエル戦の先発は千賀。「救援のジョーカー的存在」とみられていた投手を思いきって先発に使った。勇気ある起用は相乗効果を生む。千賀は5回1安打無失点で応えた。準決勝、決勝でも千賀を先発起用できる選択肢が生まれた。

 打線にも攻めの姿勢を貫いた。1次ラウンドで結果が出た打線だったが、オランダ戦では1番に田中を起用。秋山も通算4戦目で初めてスタメンで使った。結果が出ているものを変えて動かすことには勇気がいる。確かな眼力と、選手からの信頼感がなければいけない。好転させるには勝利しかない。一つひとつ白星を重ねることで、チームに一体感が生まれていると感じるよ。

 筒香が打てなくても、中田が打つ。そして1次ラウンドはあまり調子の出ていなかった山田、坂本も本来の姿になっている。心配なのは青木だが、世界一となった2009年大会のイチローも2次ラウンドまでは低調だった。大会前は3番に入っていたが、1番にして、決勝ではV打含む4安打。現在3番を務めている青木の使い方が打線では準決勝のポイントになるだろうな。

 
 米国時間21日(日本時間22日)の準決勝、翌22日の決勝の戦いは今までとはまったく別物の戦いになるよ。屋内球場の東京ドームと違って、WBC球に適応していた選手も突如、感覚の違いを感じることもある。ただ、もう修正している時間はない。2次ラウンドまでの6試合で調子の良い勝ちパターンを見抜けただろうから、選手を信じて送り出すことだ。

 大声援が送られた東京ドームとは違った雰囲気での戦いになる。別ブロックの戦いを見ると、真っ向勝負では太刀打ちできない。継投の妙、1イニングずつの9人継投など、ここからは頭を使った戦いになる。

 もちろん過去3大会で2度優勝している日本に対し、相手も警戒から入ってくる。きれいな野球は一切してくれないと考えたほうがいい。わざとタイムで間を空けたり、投球間隔を狭めたり……。でも、今の選手たちなら乗り越えてくれると信じている。

 15年11月のプレミア12の敗戦をきっかけに強くなったのは監督だけではない。選手みんなが立ち向かう勇気を持っている。来週のコラムで世界一奪回を祝うことができたら最高だ。私たちも信じよう。

週刊朝日 2017年3月31日号

著者プロフィールを見る
東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

東尾修の記事一覧はこちら