マイルス・デイヴィス・イン・スペイン
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『マイルスを聴け』は楽しいことばかりではありません
Miles Davis In Spain (Cool Jazz)

 拙著『マイルスを聴け』には、おかげさまで多くの方からご意見をいただくが、いまだに「もうわかったから増加分だけ別にして出せ」などという、本書の主旨ならびに生き方を理解していないとおぼしき声が聞こえてくることがある。よくあるCDのボーナス・トラックではないのだから、すなわち新音源が出ることによって前後の文章も変更を余儀なくされるわけで、それでなくても新事実発見による更新作業は各ページに対して行なっており、「増加分だけ出せ」というわけにもいかんのです。だいたい増加分だけ出した場合、増加分以外を知らない新規参入者はどうするのか。

 とはいえさすがにワタシも「増加分だけ出したいなあ」と思うこともないわけではない。たとえばこの音源のような場合。ちなみにこのサポディスク盤は1988年7月12日、スペインでのライヴ。タイトルを意訳すれば『スペインの印象』といったところでしょうか(どこかで聞いたことがあるようなないような)。さて、その理由をより具体的にわかっていただくために拙著『聴けV8』の944ページを開いてください。そこには上下2枚扱いで「7月11日」と「7月13日」のライヴ盤が載っている。そうなのです、今回は「7月12日」というわけで、新たにヴァージョン9をつくるとき、せかっくきれいに収まっている2枚を切り離し、それなりの分量を書下ろさなくてはならない。その場合、ヘタをすると都合3枚分、つまりは6ページ分も書かなければならない羽目に陥る可能性だって考えられるわけです。こういうとき、「ああ増加分だけ別冊で出したいな」という禁断の誘惑にヨタヨタと身を任せたくなるワタクシなのであります。

 そうそう、ついでといってはなんですが、先日ある人から「分厚すぎて読めない」と怒られたのですが、その人はあの分厚い本を最初から最後まで、フツーの本と同じように読もうとしていたんですね。それは読めないですよ、書いた本人だって。あの種の本はテキトーかつパラパラの飛ばし読みが極意であり、最初から読み切るものではないと思うのです。そうして長く、薄く、じっくりと時間をかけて付き合っていく。そうこうしているうちに次のヴァージョンが店頭に並び、というのが理想の展開なのであります。

 さすがに本日は書くことも尽き、楽屋裏ならびに「ここだけの話」を吐露させていただいたが、肝心の演奏は悪いわけがなく、音質も良好なオーディエンス録音。たまたま収録時間の関係からそうなったのだろうが、ラストが《スプラッチ》というのも新鮮でいい。

【収録曲一覧】
1 In A Silent Way-Intruder
2 Star People
3 Perfect Way
4 The Senate / Me And You
5 Human Nature
6 Wrinkle
7 Tutu
8 Time After Time
9 Funk Suite
10 Movie Star
11 Splatch
(2 cd)

Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, fl) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Foley (lead-b) Benny Rietveld (elb) Ricky Wellman (ds) Marilyn Mazur (per)

1988/7/12 (Spain)

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