
特に原因はなくても手や首がふるえる本態性振戦(ほんたいせいしんせん)。高齢者だけでなく、若い患者も意外と多い。従来は開頭手術が必要だった重症例に、脳に超音波を集中的にあてる治療法が厚生労働省の承認を受けた。
手がふるえて思うように字が書けない、飲食物をこぼしてしまう。しかし、ふるえを引き起こす病気がなく、ふるえ以外にとくに症状がなければ、本態性振戦の可能性がある。
「本態性」は原因不明、「振戦」は自分の意思に反して起こる規則正しいふるえ、の意味だ。手に限らず、首(頭)が左右に細かくふるえる、声がふるえる場合もある。患者数は人口の約2.5~10%もいると推定されている病気だ。
茨城県在住の自営業・平松清二さん(仮名・65歳)は50代のころから、人と向き合うと首が左右にふるえるようになった。手のふるえもあったが、それほど気にならなかった。
年だから、とあきらめていたが、知人から「ふるえ」をよく診ている医師がいると聞き、2015年夏、川崎市立多摩病院神経内科の堀内正浩医師を訪ねた。
堀内医師は、平松さんの首のふるえ方で本態性振戦を直感した。まず、ふるえの原因となっている病気があるかを鑑別するが、それには問診が非常に重要だ。
「問診では、どこが、どんなときに、どのようにふるえるのか、それはいつごろからなのか、といった症状の詳細や、ふるえで困っていること、家族に同じような症状の人がいないか、などを確認します」(堀内医師)
こうした問診に、場合によってはMRI(磁気共鳴断層撮影)などの画像データも加えて診断をつける。手などがふるえる病気には、脳卒中、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、アルコール依存症、ジストニアなどがあるが、患者数が多く、鑑別がとくに重要なのはパーキンソン病である。
「最もわかりやすい例は、安静にしていてもふるえるならパーキンソン病、字を書く、食事をするといった動作に伴ってふるえるなら本態性振戦です」(同)