坂井:私は破るように見えたという可能性は十分あると思います。つまり本人がそう考えていたのではなく、誰かがそういう策動をして、その犠牲になったという可能性。正男氏にすると迷惑な話でしょうが。まったくの推測ですが、例えば二重スパイを使って彼が亡命しようとしていると北朝鮮側に信じ込ませ、妄動を起こさせたということは考えうる。
平岩:「狂った正恩氏による恐怖政治」ではなく、「内なる冷酷なものを貫徹するための恐怖政治」。これならあると思いますね。
坂井:おっしゃるとおりですね。
──正恩氏の権力を脅かす前に処分した、という可能性はありますか。
坂井:正男氏は正恩氏の対抗勢力にはなれなかったでしょう。
平岩:本にも詳しく書きましたが、正恩氏の権力継承者としての最大の正統性は、父に指名されたこと。いくら長男でも指名されないと、あの国では正統性に欠ける。
坂井:脱北者が正男氏をかつごうとしていた、との報道がありましたが、そういう人たちがいるとすれば、その理念って、いったい何なのかと思いますね。「世襲」とか「個人独裁」の体制が嫌だから脱北したんじゃなかったんですかと聞きたい。
──正恩氏のおじ、張成沢氏の処刑と今回の事件との関係はありそうですか。
平岩:どうでしょうか。正男氏─張氏─中国と結びつけてラインを設定し、これを断ち切った正恩氏は中国からひどい目に遭う、というわかりやすいストーリーですが、私にはとてもそうは思えませんね。
坂井:そもそも張氏の処刑で中朝関係が冷え込んだといいますが、あの後、北が核実験をやった。中国は直後の国連安保理で、北朝鮮への制裁措置が厳しいものにならないよう、すごい粘り腰でがんばった。