坂井:いざとなったら中国が正男氏を擁立しようとしていたのではないかという見立てもありますが、今回の事件の結果、彼は、少なくともあの時点では中国の庇護下には置かれていなかったことが証明された。中国からするとその程度の人だったということでしょう。
平岩:韓国にある期待論ですね。でも、中国はもともとそんなことを真剣に考えていないと思います。
──事件後、中国は北朝鮮からの石炭輸入の停止を発表しました。
坂井 あれは時期が偶然一致しただけと思います。
平岩:私も同感です。北朝鮮のミサイル開発に対して国際社会の圧力が強まっている。韓国が高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)を導入しようとしている中、中国なりに自分たちもやっていると言いたいのでしょう。禁輸の上限になったから止めただけ。
坂井:北朝鮮がやったのなら、金正恩氏がまったく知らなかったというのはあり得ないと思います。ただ、それは、彼が北朝鮮の金日成、金正日時代からのテロの伝統を忠実に踏襲している結果であって、彼だからこそやったことではない。
平岩:「白頭の血統」と言われるファミリーの一人まで殺すというのはこれまでなかった、だから狂っているというイメージを韓国側が強調しています。
坂井:かつての中国や朝鮮王朝でも皇帝や王様が兄弟、親戚を殺すことはいくらでもあった。その結果、徳望を失ったかと言えば、そうでもないでしょう。
平岩:正恩氏が知らずしてはやはりできなかったでしょう。だとすると、私たちには計り知れない何かファミリーとしての掟(おきて)みたいなものがあり、正男氏がそれを破ったか、破ろうとしていたか、あるいは破るかのように見えたのか、なのかなと思います。