平岩:もちろん良い関係ではない。処刑のために中朝の首脳会談もできないなんて言う人がいるけど、それは処刑前からなかった。また、処刑以前にあった交流はその後も続いている。中国にとって張氏はいくつかあるうちの一つのルートにすぎなかったのでは。
坂井:この事件の前の状況を言うと、北朝鮮にとって必ずしも悪い局面ではなかった。韓国の次の政権は朴槿恵政権よりは融和的でしょう。韓国がそうなれば、米国だけ逆方向に行くとは考えにくい。あえてこわもてを強調する必要はなかった。今回の事件は、正恩体制を維持するためという視点から言っても失策だったと思います。
平岩:トランプ政権で今言えるのは「戦略的忍耐」というオバマ前政権のやり方は失敗だったということだけで、北朝鮮として切羽詰まった状況ではありません。
坂井:切羽詰まっているのは北朝鮮よりも韓国の現政権。余命あと何カ月ですから。韓国当局が今回の事件を企図したとは言わないけれど、北朝鮮非難に利用しているのは間違いない。
平岩:「キム・チョル」というおじさんが変死しただけで終わっていれば、大騒ぎにはならなかったのに。
坂井:静かに殺したいなら拉致してどこかに埋めてしまうという手もあった。そういう意味でも今回の事件は不可解です。まさか、誇示したかったわけではないでしょうけど。
平岩:であれば、遠くから狙撃手が銃殺するほうが、もっと誇示できた。
坂井:いずれにせよ、これで北朝鮮の国際的イメージが更に悪化し、マレーシアとの関係はじめ「活動空間」がますます狭められるのは不可避でしょうね。(構成 朝日新聞論説委員・箱田哲)
※週刊朝日 2017年3月10日号