ちなみに前川氏は本誌の取材に東ガスへ天下ったことについて、「問題ない」と答えていたが、在職中の職務に関連する企業への天下りを禁じた都の基準に抵触していた可能性がある。
さらに資料から都側の無責任な「ダブルスタンダード」も露呈する。03年12月2日の会話だ。
<都が(汚染処理費用を)負担するすべは本当にないのか。予算が通らないということなのか>(東ガス)
<議会での説明がもたない>(都)〔以下中略〕
<議会の中で、きれいになった土地を購入すると言っているのか。事実関係を知りたい>(東ガス)
<市場が委員会のなかで発言をしている>(都)
<委員会のなかで発言をしているので、先送りすることはできないということか>(東ガス)
都は「汚染土壌が残る」という前提で東ガスと合意しておきながら、都議会には「きれいになった土地を購入する」と、真逆の説明をしていたことになる。実にいい加減である。
すったもんだの末、05年5月に東ガス側は汚染にフタをするだけでなく、地表から2メートルまでの深さの環境基準を超える汚染物質を除去するなどの条件で都と合意し、対策工事を実行した。
「この時に両者が合意した汚染の調査方法は、30メートル四方につき1地点を調査すればよいという粗い基準で、結果的に多くの汚染が残されてしまったのです」(石原氏を相手取り、豊洲の用地売買について住民訴訟を起こしている原告団の一人、水谷和子氏)
結局、08年には都の調査で環境基準の4万3千倍を超えるベンゼンなどの汚染が発見される。慌てた都は汚染処理費として858億円をつぎ込んだが、東ガスは78億円を負担したのみだった。なぜ、公金が一方的に使われたのか。本誌は08年当時に都の市場長だった比留間英人氏を直撃しようと自宅を訪ねた。しかし、本人は出てこず、妻が「取材には一切応じませんので、申し訳ありませんがお引き取りください」と語るのみだった。代わって移転を決めた当時の大矢市場長(前出)が、08年に高濃度のベンゼンが検出されたことについて、こう主張した。
「私は関知していないが、政争に巻き込まれたんだよ。ためにする議論もされている。覆土で問題なかった。地表から4メートルの深さまで対策したものを5メートルまで掘れば、そりゃあ、地下は汚染されている。問題は改善された土壌から出るかどうか。検査の仕方もある。深く掘れば掘るほど汚染は出るに決まっている。そんなことしても意味がない。地球の真ん中にマグマがあって熱が高いからいけない、というのと同じじゃないか?」
17年1月にも豊洲市場の地下水から環境基準の79倍のベンゼンが検出されているが、“政争”で済む問題なのだろうか。(本誌・小泉耕平、上田耕司)
※週刊朝日 2017年2月24日号より抜粋