ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。トランプ大統領誕生とともにローンチされた“公約監視サイト”をテーマに論じる。

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 トランプ大統領が米大統領選中の昨年10月末に公表した、大統領就任後100日間で着手する行動計画(公約)の進捗(しんちょく)状況をチェックするサイトが話題を集めている。

 サイトの名は「TrackTrump(トラック・トランプ)」。トランプ大統領誕生と同じ1月20日に開設された同サイトにアクセスすると、トランプ大統領の公約が八つの政策カテゴリー(移民、貿易、エネルギーと気候変動、連邦政府、経済政策、教育、健康保険、安全保障)に分類され、アイコンで表示されている。各カテゴリーをクリックするとトランプ大統領の公約に書かれている分野ごとの個別施策とその進捗状況がチェックできる。例えば、貿易のアイコンをクリックすると公約で示された貿易関連の五つの施策が表示される。そのうち、トランプ大統領が就任3日後に大統領令に署名したTPPからの離脱は、グリーンのマークが付けられている。マークの色は未着手はグレー、着手を開始するとイエローに変わり、政策が実施されたらグリーンになる。

 もし政策が実施されなかったり、政策の内容が公式に変更されたりした場合はこの色が赤くなるそうだ。このように表示することで、あたかもToDo管理ソフトを使うように政策の進捗を把握できる。個別の施策をクリックすると、詳細な説明がポップアップで表示されるのも有用。シンプルな作りながら、欲しい情報にすぐアクセスできる優れたウェブサイトだ。

 
 サイトには開設した目的も書かれている。一つは「トランプ大統領の行動計画に記載されている施策の進み具合を監視し、新政権に公約を守らせること」。もう一つは「政治的な思想に関わらず、新政府の活動を偏見なくモニタリングしたいと考えている人たち全員が便利だと感じられるようなリソースを作り、生活に影響を及ぼす政策の変更を市民が理解し、リアルタイムで把握できるようにする」というコンセプトが掲げられている。前者だけ読むと、トランプ大統領支持者が作ったようにも思えるが、後者を読むとこれがジャーナリズム的なプロジェクトであるということがわかる。事実を極端に曲げて一方的に喧伝(けんでん)し、メディアを攻撃するトランプ大統領に「ところで公約していた施策の実施はどうなりましたか?」と突きつけるためのサイトと言えるのかもしれない。

 サイトの開設者はシリコンバレーの有名投資家であるサム・アルトマン氏を中心とするベンチャー関係者たち。制作コストはアルトマン氏のポケットマネーで捻出されたそうだ。「トランプ大統領のツイッターの発言は、政策の実行には何ら関係がないのでフォローしない」という潔さも心地よい。

 個人でもこれだけできるのだから、日本の新聞社や出版社もこれを参考にしてもらいたい。政権を取った後の重大な公約違反は、日本のほうが先を行っているのだから。

週刊朝日  2017年2月10日号