ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏は、トランプ大統領と米メディアのせめぎ合いが、メディアの在り方を変えようとしているという。

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 1月14日、米エスクァイア誌のウェブサイトに衝撃的な記事が掲載された。トランプ大統領の政権移行チームが、政権発足後にホワイトハウス内から報道陣を退去させることを計画しているそうなのだ。一時は記者会見場閉鎖も示唆したが18日、ひとまず撤回された。

 記事の情報源となった政権移行チームの高官は取材に対して「メディアは野党(敵対勢力)だ」と発言しており、敵対する姿勢を隠さない。今後もマスメディアと折り合いを付けていくつもりはなさそうだ。

 彼らが強気に出る一番の理由は、トランプ大統領のツイッターの影響力にある。報道陣をホワイトハウスから排除しても、重要な伝達事項や報道への反論はツイッターでやるから問題ないというスタンスなのだろう。

 マスメディアはツイッターに翻弄(ほんろう)される日々が続きそうだが、テクノロジーを利用して彼のツイッターを分析し、対抗言論を行う動きも活発化している。データサイエンティストのデビッド・ロビンソン氏は「トランプツイート」を詳細に分析した結果をブログに掲載している。それによればトランプツイートには、大まかに分けてiPhoneから投稿されたものと、Androidから投稿されたものの2種類があるという。当たり障りのない告知や礼儀正しいアナウンスはiPhoneで投稿されているが、敵対する勢力に対する暴言ツイートなどはすべてAndroidで投稿されている。トランプ大統領はサムスンのギャラクシーというAndroid端末を愛用していることを公言しており、iPhone経由の投稿は、スタッフが代行していることがうかがえる。今後トランプツイートを分析する際は、Androidの投稿を中心に調べなければ、彼の伝えたいことの本質は見えてこない。

 
 マスメディアからトランプツイートへの逆襲も始まっている。昨年12月19日、ワシントン・ポスト紙のフィリップ・バンプ記者がウェブブラウザー「Chrome」用の拡張機能「Real DonaldContext」をリリースした。この拡張機能を組み込むと、トランプツイートの内容が事実であるかどうか記者がチェックした結果がツイートの下部に表示されるようになる。バンプ記者はこの拡張機能を作った理由を「トランプ氏のツイート自体に文脈や修正を追加するため」と説明。トランプツイートだけ見ている人にはその発言が事実かどうかもわからないし、たとえ事実であっても前後の文脈を知らなければ簡単にミスリードされてしまう。この拡張機能を入れることで、普段新聞を読まず、トランプツイートが情報源になっている人にも情報を届け、影響力を弱めようという狙いがあるのだろう。

 トランプ氏はマスメディアに頼らず、ネットというテクノロジーの力を借りて大統領になった。マスメディア側もテクノロジーに明るくなければ対抗できない。米国の政治とメディアを巡る環境は、今まさに変わろうとしているのだ。

週刊朝日  2017年2月3日号