落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「モテ期」。

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 前号に続いて落語の話題で恐縮です。落語家なんだからべつにいーかな。

 古典落語「宮戸川」に「女(おんな)払い棒」という棒が出てくる。架空のものだろうが、ネーミングのパンチが利きすぎている。田嶋陽子先生に聞かれたら問答無用で取り上げられて、膝でへし折られそうな棒だ。

「宮戸川」の中で半七というウブで奥手な若者に、伯父さんが説教をする。

「お前もいい若い者なんだから、たまには女の子でも連れてこいよ! 伯父さんの若い頃なんて、女が群がって表を歩けなかったんだ。『女払い棒』ってのを持って、女を追っ払って歩いたもんだっ! ワッハッハッ!!」

 と自慢話をして、半七に色事を勧める。松方弘樹から油っけを半分抜いて、刀と釣り竿を取り上げたくらいのイメージ。

 この「女払い棒」って一体どんな棒なんだ? 木製? 金属製? 万が一、群がる女子に命中した時のコトを考えると、金属はない。ケガすっぞ!

 そもそもどこで売ってるのだろう。古道具屋か、昔でいう荒物屋とか。つるし? いわゆる出来合い? それとも誂え? いわゆるオーダーメイド?

「モテ期」の絶頂なら、そこは見えを張って一点モノにしたいところだ。刺々しいデザインは危ないので、滑らかな流線形で「女性を拒否しつつも、まんざらでもない感」を出したい。

 かなりな勢いで振りたい(本当に当てるのではなく、あくまで様式美として)のでグリップは滑りにくくしよう。

 色は季節感を出したいし、服とコーディネートもしたい。24色くらい取り揃えてほしい。

 両手がふさがってしまうと、野暮ったく見えるのがよくない。片手で扱うのだから手元にストラップを付けよう。片手で颯爽と女を払ってるところを、左斜め45度から見てほしい。

「今日も払ってんな、一之輔!」
「あんなに追っ払うなら一人くらい分けてほしいやな!」

 
 町人のやっかみの声が響き渡るはず。

 どうせなら、何人払ったか計測できるカウンターを手元に付けてほしい。自分の生年月日・身長・体重、日付を入力すると、その日に払うべき女性の最適数が計算されて、その結果が月ごとにグラフ化されてプリントアウトされると嬉しい。冷蔵庫にマグネットで貼っておこう。

 払っておきながら「あの子はもったいなかったなー」というコトが必ずあるはずだ。だから棒の先っぽにカメラを付けよう。払いながらも連写で女の子の顔を撮れて、後で画像をパソコンに落とせるようにしよう。

 その画像を眺めながら、

「嫌いじゃないけど、あえて払ってやったのさ。ふふふ……」

 と酒を飲みながら悦に入ろう。

「モテたら棒で女を払って歩く」は男の夢だ。ロマンだ。人生の勝ち組だ。でもこんなコト考えてる奴は、まずモテない。

「宮戸川」の伯父さんは、

「もっともその頃、伯父さんは焼き芋屋だったんだけどな」

 とオチをつける。といえど、こんなにきれいに自分で落とせる男は、モテたに違いない。

 とりあえずモテるために焼き芋屋になろう。でもたぶん、そういうコトじゃないんだろう。そんなコトはわかっているのだけども……。どうすりゃいいかわからない。

週刊朝日  2017年1月27日号